偽恋ゲーム | ナノ

▽ 3



斎「…確かにあいつは少し変わっている。」


沖「一君?」


静かに斎藤が口を開くとそれまで騒いでいた部員達は話すのをやめた。


斎「だが、あいつの良いところは俺が知っている。俺のことをどうこう言っても構わんがあいつのことを悪く言うことは許さん。」


 「え…。」


 「あ…いや、ごめん。そんなつもりは。」


おろおろし始めた部員達に斎藤がたたみかけるように淡々と告げた。


斎「あいつを選んだのは俺だ。何か文句があるなら聞くが?」











何よそれ。
そんなの…聞いてないよ。
一歩も動けない私を千が隣からつつく。


千「…いきましょ?真尋。」


 「うん…。」


千と剣道場の入り口へ歩いていくと部員たちがまた一段と慌てだす。
さっきの会話が聞かれていたと思ってたんだろう。実際聞こえてたけど。


 「あの…一。お疲れ様。」


斎「ああ。」


沖「どうだった?真尋ちゃん。」


 「二人ともすごかった。やっぱり一生懸命やってる姿って感動するね。」


千「ええ。本当に素敵だったわよ?」


言い終わってから私は持っていた飴を斎藤や沖田、他の部員にも配った。
みんな驚いたような顔で受け取っていく。


 「水分だけじゃなくて、塩分もとらないと。ね、一?」


そう言うと斎藤は少し目を丸くしてだけどすぐに微笑んでああと頷いた。


沖「へー気がきくじゃない。さすが彼女だね。」


 「うるさいなぁ。」


 「あ…ありがと廣瀬さん。」


 「俺達の分まで。」


 「え?いいよいいよ。たいしたもんじゃないし。みんなもお疲れ様ー!」


 「「っ…。」」


斎「…真尋、帰るぞ。」


 「え?」


斎藤は私の腕を掴むとつかつかと門の方へと歩き出した。
千の方を振り向くと沖田と並んでにこにこと手をふっている。(正しくはニヤニヤだけど)


 「斎藤!?もう帰るの?」


斎「ああ。あそこに長居する必要もないだろう。」


 「それはそうだけど…どこ行くの?」


斎「…飴の礼に何か奢る。」


 「えええ!?飴ぐらいで!?いいからいいから!!!」


ぐいぐいと駅前の方へ向かって引っ張られる私は慌てて斎藤の腕を掴んで止めようとする。
けど、やっぱり力じゃ勝てなくてそのままずるずると駅前の方へ連れていかれることになった。



斎「…聞こえていたか?」


自動販売機で飲み物を買ってきてくれた斎藤からコーヒーを受け取るとそんなことを聞かれる。
これはきっとさっきの会話のことだよね。
もしかしたら私が聞いていたと思って気にしているのかもしれない。
別に悪口を言われたわけでもないんだけどな。


だけどへこんだのは確かだ。
なのにすぐに元気になったのも事実だ。


 「なんの話?」


斎「いや、聞こえなかったならいい。」


 「ふーん。」


聞こえなかったふりをしよう。
聞こえていたと言ったら必死に弁解してくる姿が目に浮かぶけど今は何だか気分がいいから。


駅前の賑やかな町並みをこうして二人並んで眺めるのも悪くないと思えた。



つづく


おまけ↓↓




剣道場の前に残された千と沖田は二人を見送ると手を振るのをやめた。


千「ふふっ。ねえねえ沖田君。あの二人…もしかしたらもしかするんじゃない!?」

千が沖田にだけ聞こえるように言う。
沖田も笑顔で頷いた。


沖「だね。…あ、みんなも一君の前で真尋ちゃんのことは言わないほうが良いよ?」


 「え?」


 「あ…ああ。いや廣瀬は良い奴だと思ってるぜ?ただ斎藤の相手ってなるとびっくりするというか…。」


 「でも、飴くれたときの笑った顔は良かったよな。」


 「ああ。俺もちょっと思った。」


少しだけ頬をそめて話している部員達に沖田が笑顔で話を続ける。


沖「みんないい度胸じゃない。さっきは真尋ちゃんよりもっと良い相手が居るとか言っておいて、次は可愛いと思っちゃうなんてさ。一君が知ったらどうなるんだろうね。…来週の稽古が楽しみだな。」


 「「お…沖田!?!?」」


千「…あなた、悪い人ね。」


沖「やだな。楽しく過ごそうとしているだけだよ。」


にやにやと確実に悪い顔をしている沖田を千は呆れた顔で見ていた。
次の部活で怪我人が続出することになるのは言うまでもない。




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