偽恋ゲーム | ナノ

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練習試合とはいえ、二つの高校が集まると剣道場はけっこうな人数になった。
私と千が道場の隅に正座していると斎藤と沖田がやってくる。


沖「へえ、寝坊しなかったんだね。真尋ちゃん。」


 「するか!」


千「二人ともがんばってね。」


斎「ああ。」


二人がみんなのところへ戻っていくのを見ていると何故かちらちらと視線を感じた。
同じ高校の剣道部員達だ。


 「ねえ、千。なんかみんなこっち見てない?やっぱり見学者って目立つのかな…。」


千「え?ああ言われてみればそうね。まあいいじゃない。許可はとっているんだし。」


 「そうだけど。」


何だかちらちら見られると気になるんだけどな。
そんなことを考えていた私も試合が始まるとすっかり忘れて見入ってしまう。



防具に身を包んでいても立ち姿に斎藤だとはっきりわかる。
無駄な動きがなくて、吸い込まれるように竹刀が相手の面や小手に入っていく。
まばたきすることも忘れて私は試合を見続けた。



斎藤も沖田も強くて一度も負けることがなかった。
試合は二時間ほどで終わり、二人の活躍もあってうちの高校の勝利で幕を閉じた。

部員が片づけを始めたので私達は剣道場の外で待つことにした。


千「ほんとあの二人って強いのね。なんか打ち込める隙が全然見当たらないというか…。」


 「迫力あるよね!面かぶってると別人だよほんと。凛々しく見える!」


千「ちょっと真尋。それじゃ普段は凛々しくないみたいよ。」


 「え?そのつもりで言ったんだけど。」


千「ひっど!!」


私の返しに千が笑っていると何かに気付いて私の肩を叩いた。


千「あ、みんな着替え終わったんじゃない?出てきたわよ。」


少し離れた位置にいた私達からも剣道場の入り口はよく見えて、剣道部員がぞろぞろと出てきているのがわかる。


千「行きましょうか?」


 「うん。」


私と千は入口の方へ向かって歩き出した。


千「それ何?」


私がかばんからとりだしたものを千が不思議そうに見ていた。


 「塩飴!」


千「塩…飴?」


 「うん。水分だけじゃなくて塩分もとらなきゃと思って持ってきた。」


千「へえ…珍しく気がきくじゃない。雨降るわよ。」


 「ひどいな!」






 「なあなあ斎藤!彼女きてたよな!?」


男子生徒の大きな声に思わず足が止まった。
別に隠れる必要なんてないのに、ついつい千をひっぱって木の陰に隠れてしまう。


千「どっどうしたのよ!?」


 「いいからいいから。」


こっそりと木から剣道場の入り口を見ると斎藤と沖田が他の部員に囲まれていた。


 「あの子だろ?廣瀬さん。」

 「そうそう。俺同じクラスだから知ってるけどお前らほんとに付き合ってんだなー。」


斎「…そうだが。」


 「でもさー何であの子なの??」


 「ああ。確かに廣瀬はおもしろくて良い奴だけどさ。」


 「斎藤ならもっと可愛い子と付き合えるじゃん!!」


 「廣瀬はなんか男友達みたいだしよ。」


沖「…あのさ、君達。」


わいわいと盛り上がる部員を沖田が窘めようとしていた。


千「真尋…?」


 「…。」


確かにその通りだ。
斎藤は選びたい放題で、同じ風紀委員の阿川さんや綺麗な先輩、可愛い後輩、どれでも選べるっていうのに。

どうして私なんだろ。

私なんか釣り合ってないし。
あんなふうにからかわれるの、斎藤嫌だろうし。
迷惑じゃん。

持っていた塩飴の袋を思わずぎゅっと握りしめた。
どうしたんだよ、私。
別に…関係ないよ。

だってこれは、偽物の恋なんだから。
なのに何で、こんな…。
複雑な気持ちになるんだろう?

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