▽ 1
学校の中だというのに生徒の姿はなく、あたりは静まり返っていた。
すると突然聞こえる声。
新『真尋!会いたかったよ!』
『私も!新太君!!』
私の所へ手を振りながら走ってきてくれるのは新太君だった。
何これ〜。
ああ、夢か。夢見てるんだ。
新太君と直接話せるなんて幸せな夢!
目覚めるな私!永久に!!
嬉しくて、これから何しようか、どこ行こうか下を向いて考えていた私はとりあえず新太君に相談しようと彼の方を見た。
『え…あれ?斎藤?』
するとさっきまで新太君がいたのにそこには斎藤が立っていた。
ふわりとあの時の笑顔で私を見ている。
『斎藤?』
斎『真尋…俺はあんたのことが…好…。』
『ええ!?まっ…まっ…待ったあああ!』
何これ何これ何の夢ー!!!!!????
「ちょっと待ってえ!!!」
自分の叫び声を聞いた瞬間。
一気に視界に景色が広がった。
「あれ…?」
周りを見ると目を丸くして私を見ているクラスメイト。
そして頭を抱えた千、笑いをこらえている沖田。振り向くことすらしない斎藤。
永「…どうした?真尋ちゃん。どこかわかんないのか??」
困ったように頭をかいている永倉先生。
「あ…。」
やっちまった。
完全にやっちまったな、これ。
「ご…ごめんなさい。」
謝罪と同時に沸き起こる爆笑の声。
永「寝ててもいいから静かにしててくれぇ…頼むから。」
「ごごごごごめんなさい!永倉先生!!」
がくりと肩を落とした永倉先生にさらに周りの笑いが増幅する。
私ったら、夢で叫んでいたどころか現実で思い切り叫んでたよ。
どうしよう。絶対隣のクラスまで響いてる。
しばらくして教室全体が落ち着くと授業が再開された。
恥ずかしくて穴に自ら突っ込んでいきたいと思っていた私もどうにか冷静を取り戻す。
もうなんなの。幸せな夢だったのにさ。
そもそもいきなり斎藤が出てくるから…。
斎藤が…。
あーーー考えるな考えるな真尋。
あの時の微笑みはなんというか、レアアイテムみたいなもんで。
珍しいから印象に残っちゃっただけよ。
そうよ、騙されるな。あいつは黒藤だ。
そして私は授業終了のチャイムが鳴るまで教科書を穴があくほど見つめ続けた。
無論、中身など頭には入っていない。
教科書をしまい、次の授業の準備をしているとすっと私の机の前に人影が現れた。
ゆっくり顔をあげるとそこには笑顔の斎藤が立っている。といってもこれは笑っているようで笑っていない。偽物笑顔だ。冷笑だ。
「あ…何かようかしら?一。」
斎「ああ。どうやら真尋は少し眠いようだからな。眠気覚ましに少し出ないか?」
「わ…わーい。嬉しい。」
なるほど、眠気覚ましに出ないかを正しく訳すとちょっとそこまでツラかせや…ですね?
とりあえず廊下までついていくと斎藤は周りを確認して真顔になる。
斎「…あんたは。真面目に授業を受けないだけではなく、静かにしていることすらできぬのか。」
「ご…ごめんって。」
斎「間違いなく俺が土方先生に何か言われることになる。」
「え?何で?」
斎「彼女の管理をしろと以前言われた。」
ええー…先生にまで広まってるの。
っていうか土方先生、なんで斎藤に管理させようとしてるの。
斎「…まあいい。今はその話をしようとしていたわけではない。」
「え?」
斎「明日隣の高校と練習試合がある。もしよかったら見に来るか?」
「え!練習試合!?」
そう言えば前に剣道の練習を見に行った時、試合をもっと見たいと言ったことを思い出した。
それを覚えててくれてんだろうか?
「行きたい!」
斎「そうか。場所はうちの高校の剣道場だ。ちなみに試合は午前中だぞ。遅刻するなよ。」
「うん!あ、千も誘って良い?」
斎「ああ。十時から開始だ。中に自由に入れるから大人しく隅の方で見ていろ。」
「はーい!!」
それだけ告げると斎藤は戻るぞと言って教室に入って行った。
私も続く様に中に入る。
明日試合か…なんだかこっちがドキドキしてくるなあ。
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