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斎「…どうした。廣瀬。」
「え?」
斎「先ほどからずっと静かなんだが…。不気味だ。」
「どういう意味だ!」
昼休みももう終わるということで私達は教室へ向かって移動していた。
校舎に入り、何か楽しそうに会話をしている千と沖田の後ろを斎藤と並んで歩いていた。
斎「何か言われたか?」
顔は前を向いたまま、相変わらずの無表情だけど多分心配してくれてる…のかな?
「ううん。ただ…なんか…。」
斎「なんか…何だ?」
「ああやって自分で気持ちを伝えられなくて他の人のせいにする先輩はずるいし許せないんだけどね。」
斎「ああ。」
「でもみんな斎藤のことが好きなわけで。」
斎「…。」
「本当にずるいのはみんなに嘘をついて彼女のふりをしている私なんじゃないかって…。」
廊下の床を見つめながら。
私はさっきから思っていたことを呟いた。
好きな人に彼女ができたら誰だってきっとショックだと思う。
でも好きな人が幸せならまだしも、それが偽物だったなんて。
そんなこと知ったら…。
バシッと頭に軽い衝撃がきて私は思わず前に大きく一歩踏み出した。
「何するの!?」
斎「すまない。それ以上頭を悪くさせるつもりはないのだが…。」
「うっさい!」
斎「…お人よしは馬鹿を見るぞ。」
「へ…。」
斎「あんたは何一つ悪いことなどしていない。騙しているのは俺だ。」
「だけど…。」
立ち止まって俯く私に斎藤は言葉を続けた。
斎「頭で考えず行動してしまうところが多いが…真っすぐな証拠…だと思う。」
斎藤から褒められるなんて珍しい。
本人も慣れていないのか少し視線を逸らして言っていた。
「…お人よしは馬鹿を見るって言ったくせに。」
斎「ああ。だが…。」
――そういう馬鹿は嫌いじゃない。
何それ。
何いまの。
その一言を発したときの斎藤は微笑んでいた。
だけどいつもみたいな冷笑とかそんなもんじゃなくて。
ふんわり優しい笑いだったと思う。
「っ…あ、そう。」
斎「?どうかしたか?」
「別に。」
沖「ほら、二人ともー!早くしないと授業始まるよ!」
斎「今行く。」
教室の前で私たちに向かって叫ぶ沖田に斎藤が返事をしていた。
私はと言えば、それに返答することもできず、かといって斎藤に話しかけることもできず、ただ黙って教室へ向かって歩き出す。
何今の。
何なの?
何で…ドキドキしてるの?
さっきの斎藤の微笑みが離れない。
そんな顔するなんて。
そんなの…ずるくない!?
つづく
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