偽恋ゲーム | ナノ

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放課後。
荷物をまとめていると視界に学ランの黒が入る。
ゆっくり顔をあげるとそこには斎藤が立っていた。


斎「…今日本当に行っても大丈夫なのか?」


 「え?うん。もちろん。待ってもうすぐ準備が終わるから。」


そう言うと斎藤は前の席に座った。私が帰り支度をしているのを何も言わずに見ている。
…気まずいんですけど。何か話しなさいよ。



沖「どうしたの?二人して黙って。」


 「あ、沖田。」


斎「別に、特に意味はない。」


沖「ふーん。ねえ二人ともこれからちょっと寄って行かない?お腹すいたんだけど。」


 「あ…今日は…。」


私が沖田の誘いを断ろうとした瞬間。
本日二度目の騒がしい足音が近づいてきた。



平「真尋〜。まだいた!良かったー。」


 「?どうしたの?平助。」


沖「…ふーん。もう名前で呼んでるの。仲良いね、二人とも。別にそれはどうでもいいけど平助君気をつけてよ。まだ他のクラスメイトいるんだからさ。真尋ちゃんに馴れ馴れしいのは困るよ、一君が。」


平「あ。そっか!」


 「え?平助も知ってるの?」


平「ああ。昨日聞いた。一君モテるんだからありがたく誰かと付き合っちゃえばいいのに。」


どうやら平助も事情を聞いたらしい。これで私たちの事を知っているのは三人になる。
まあ良い人っぽいし、他の人に言うこともないんだろうけど。


 「本当だよね。いつかバチが当たりますよ。」


斎「けっこうだ。」


目の前の斎藤を半眼で見つめていると涼しい顔で返された。
何て奴だ。モテない人達に謝れ!


沖「まあいいんじゃない?一君も一応彼女ができたということで、ファンも少しは流れてるみたいだしね、僕や平助君に。」


 「さらっと自慢したよね。沖田。でも確かに平助もモテそうだよね。」


平「そっそんなことないって!」


おお。謙虚な人だった。
久しぶりにそんな反応を見たよ。


平「それに本当に好きな子に好かれなかったら意味ないじゃん…。」


 「…!本当!その通り!良かった!平助ってまともなんだ!」


がっしりと平助の手を掴みぶんぶんと上下に振っていると横から頭を掴まれた。


沖「どういう意味かなー真尋ちゃん。まるで僕や一君はまともじゃないみたいに聞こえるけど。」


 「斎藤はともかく、沖田はそうでし…いたたたたたたた!!!!」


斎「総司、やめておけ…。」


平「あーもうやめろって総司。女の子だぞ?」


頭がぐいぐいと締め付けられて叫んでいると斎藤がため息をつきながら立ち上がろうとしたがすぐに平助が沖田の手を振り払ってくれた。


 「お…女の子…?」


沖「何で本人が驚くのさ。」


 「いや、慣れていないもので。」


斎「…。」


平「あ、真尋。駅前のゲーセンにでっけえ○ライムが置いてあるの知ってるか?あれ、あそこのゲームに挑戦すると貰えるらしいんだけど二人でしか挑戦できないんだよ。もしよかったらいかない??」


思いだしたように平助が話しだす。
そういえば大きなスラ○ムのぬいぐるみがあった気がする。可愛いけど景品だよなーと思って通り過ぎてたっけ。
そんなことを思いだしていると沖田が平助の会話を遮った。


沖「…平助君。今僕が二人を誘ってたんだけど。お腹すいたからって。」


平「え?あ、じゃあみんなで行こうぜ!ゲーセンの後に飯食いに行けばいいじゃん。」


沖「まあ、僕はいいけど…。」


ちらりと沖田が斎藤を見る。
すると斎藤は静かに立ち上がりドアの方へ体を向けながら私たちに言った。


斎「三人で行ってくれ。俺は遠慮する。」


 「え?」


斎「良かったな。ゲーム仲間が増えたじゃないか。では、また明日。」


 「一?」


平「え?一君?」


沖「…。またね、一君。」


それだけ言ってスタスタと歩いていく斎藤。
いきなりのことで声がでなかった。
なんか今日の斎藤変じゃない?


平「一君、どうしたんだよ?」


沖「うーん。どうしたのか自分でもわかってないんじゃない?」


 「どういうこと?」


沖「ま、七割平助君が悪くて、三割真尋ちゃんが悪いかな。」


主・平「「ええ!?」」


ニヤニヤ笑う沖田の考えていることはよくわからない。
困った顔をしている平助の何が悪いのかもよくわからない。


だけど。


 「…ごめん、平助。ゲーセンはまた今度行こう?沖田も今日はごめん。約束してたんだ。」


平「え?ああ、俺はいつでもいいけど。」


沖「約束?…なら仕方ないよね。」


私は二人にそう言うとカバンを掴んで教室を飛び出した。




―――――――――――――――――――――






下駄箱で靴を履き替えているとパタパタと軽い足音が聞こえてきた。
廊下を走るなと声をかけようと顔をあげるとそこには廣瀬が立っていた。



斎「…どうした。二人と出かけるのではないのか?」


 「で…でかけ…ないけど。」


はあはあと息を切らしているところを見るとこいつまさか教室からずっと走ってきたのか?
俺達の教室は三階なのだが。


 「だって…約束してたじゃん。斎藤と。」


斎「は?」


 「うちでマンガ読むって。先に約束したほうを選ぶに決まってるでしょ?」


斎「…平助は。あんたのタイプなのでは?」


 「は???」


…俺は何を言っているのだ。
自分でも驚いたがそれ以上に驚いたのか、廣瀬は目を丸くして俺を見ていた。


斎「総司達が言っていたのだ…。あんたがゲームで選ぶのはああいうタイプの人間だと…。」


 「ああ。新太君みたいな感じ?まあ確かに似てるかもしれないけど…。それはそれ、これはこれ。」


首を傾げて考えながら廣瀬は続ける。


 「似てるとは思ったけど、だからといって別に好きとかそういうのはないし。助けてもらったから感謝してるけどね。だから今はさ。」


とんとんと地面につま先をあてながら靴を履いている廣瀬はカバンからちらりとマンガ本を見せつけてきた。


 「これの続きを読みに早く帰ろう!」


にこりと笑うその顔がまさに無邪気で思わず目を逸らした。
何故こいつの行動は読めないのだ。


 「ほら、斎藤。お母さん待ってるって、メールきた。」


斎「そうか。」


 「…お父さんも…待ってるらしいよ。」


斎「…そ…そうか。」


学校からの帰り道。
こいつは相変わらず携帯に新太新太と叫んでいたが、昼間の時ほど苛々することはなくなっていた。



つづく

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