偽恋ゲーム | ナノ

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お昼ご飯を教室ですませ、いつも通りのんびり過ごしているとドアの開く音がした。
そこには数学の教科書を持って廊下から覗きこんでいる藤堂君がいて私を見つけると手招きをする。




平「ほんと助かった!ありがとな?」


 「いえいえ。良かったね。」


平「そういえばさ、廣瀬さんってゲーム好きなの?」


 「え?どうして?」


ニッと藤堂君は笑って私の教科書を開くと、トントンと指でとあるページを叩いた。
そこには某RPGでおなじみ、スラ○ムの落書きが…ああああああ!
私落書きしまくりの教科書を!
よりにもよって昨日知ったばかりの人に貸したの!?!?
…穴があったら埋めたい、自分を。



そう思っていた私に藤堂君が笑顔で続ける。



平「俺も好きでさ!よく落書きしてるからうっかり自分の教科書だと思っちゃって…。」


彼は指さしていたページの次を開き再びトントンと指さす。
そこにはまたスライ○が。だけど私、書いた覚えない…ってことは。


平「悪い!なんかつられて描いた!」


ボールペンで消えない!と手を合わせて頭を下げられ、私は拍子抜けしてしまう。


 「っあはは。いいよ、そんなの。言われなかったら気付かなかったかも。」


平「ほんとごめん。これ…。」


そう言って藤堂君は購買で買ってきたであろうお菓子をくれた。


 「わざわざいいのに。昨日藤堂君に助けてもらったんだし…。」


平「あれぐらい大したことないって。あ、それと藤堂君じゃなくて平助な?みんなそう呼んでるからさ。」


 「じゃあ私も真尋でいいよ。また教科書忘れたら言って。私だいたい置きっぱなしだし。…ってこんなこと言ってたら斎藤に怒られそう。」


平「絶対一君に言っちゃだめだぜ?俺は家に置きっぱなしですげえ怒られてるから。」


そう言って笑う平助と新太君が頭の中で重なる。


 「…。」


平「どうした?」


 「あ、いえいえ。何もございませんよ。」


平「お前変な奴だなー。あ、そろそろ戻るわ俺。またな。」


思い切り手を振って平助は自分の教室へ戻って行った。
千の言うとおり。
どうやら平助は私のタイプ…なのかもしれない。


白馬の王子は突然現れるっていうけど。
本当にそんなもんなんでしょうかね、神様。




―――――――――――――――――――――





沖「あ、平助君。教科書返しに来たんだ。」


総司の声を聞いて視線を教室前方のドアへと向けた。
そこには何やら楽しそうに会話をしている廣瀬と平助の姿があった。
教科書を開いて何か会話をしている。
あの二人が数学の問題について議論するとは到底思えないが笑っているところを見ると大方落書きでも見つけたのだろう。



沖「真尋ちゃんって平助君みたいの好きそうだよね。あんなキャラ選んでなかった?ゲームでも。」


千「そうなのよ。真尋のタイプだと思うのよね。藤堂君って彼女いるの?」


沖「いないよー。」


千「ほんとに?どうかしら、真尋。けっこういいと思うんだけどなあ…。」


沖「千ちゃん。彼氏の前でその発言は如何なものなの?」


千「あ。ごめん、斎藤君。」


斎「気にするな。平助だろうと誰だろうと本当に廣瀬が好きだと思える相手ができたらこの契約は終わるつもりだ。」


最初からそのつもりだった。
あいつが特定の誰かを好きではないからこうして偽の恋人ごっこなどを頼んでいるのだ。
もしも誰かを好きになったら…。
俺には止める権利などない。


沖「ふーん…契約はね。」


斎「何が言いたい、総司。」


沖「別に〜。授業始まる前にお菓子でも買ってこよう。千ちゃんも行く?」


 「え?ええ…。」


二人は立ち上がるとそのまま教室を出ていった。
再び前方のドアを見るとまだ廣瀬と平助が話をしていたがすぐに平助は帰って行った。



別に…。
何も問題などはない。
廣瀬は変わっているが良い奴だと思う。
平助も良い奴だ。
だったらお似合いではないか。


祝福こそすれど他の感情を抱くことなど…。



 「斎藤?どうしたの?」


斎「っ!?」


 「ぼーっとして。なになに?マンガの続き気になってる?」


斎「静かにしろ。」


 「なっ!もー何!?何で怒ってるの!?理不尽だなあー。」


そう言うと廣瀬は携帯を取り出していじりはじめた。
さすがに他のクラスメイトがいる教室でゲームは取り出さないだろう。
だが、こいつのことだ。きっと携帯でも…。


ちらりと画面に目をやると案の定ゲームをしているらしい。


 「ん?携帯ならセーフだよね?見てみて。新太君!携帯バージョンもあるんだよねー。」


斎「…。」


 「斎藤?」


俺は廣瀬から携帯を取り上げると電源ボタンを押して返す。


 「ああああ!ちょっと、まだセーブしてないから!」


斎「放課後にしろ。もうすぐ授業が始まる。席につけ。」


 「だから理不尽だってば!!!」


もー!!と叫びながら廣瀬は席へと戻って行った。
俺は次の授業の教科書を取り出すとチャイムがなるまで目を閉じた。

何故かはわからん。
だがとても。
苛々するのだ。

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