▽ 3
「おはよ。一。」
斎「おはよう。真尋。」
次の日。
私はどうしても斎藤に伝えたいことがあった。
昨日の帰りに気がついたんだ。
教室について真っすぐに斎藤の席に足を進め、肩を軽くたたいて挨拶をする。
私達が話していることにもうクラスメイトは慣れたんだろう、特に誰も気にしていないようだった。
「あのね…一。」
斎「真尋、俺も話が…。」
「聞いて聞いて!昨日ね、あの【赤い糸を紡ぐ】の最新刊がでてたの!こりゃ早く教えてあげなきゃと思っ…んん!!!」
思い切り口元を手で押さえられた。
な…何で!?
斎「それ以上大きな声で続きを話すな。」
「っぷはっ!何で!?別に何も悪いこと…。」
あ。
そうか。斎藤が少女マンガなんて読んでるって知られたら沖田のように笑う奴がいるに違いない。
別に悪いことしてるわけじゃないんだから堂々と読んでほし…いや、似合わないけど。
「ちぇー。持ってきたのに。いらないの?」
斎「そ…それは…。」
「じゃあうちで読めば?学校で渡されるのもいやでしょ?お母さんが斎藤君はどうしたの?ってうるさいんだよね。」
斎「…では、伺わせてもらう。」
「よーし。じゃ今日の放課後ね。部活は?」
斎「今日まで土方先生が出張だからな。休みだ。」
「グッドタイミングだね。」
斎「真尋、俺の話なのだが…。」
斎藤が何かを言いかけた時、バタバタと近づいてくる足音が聞こえた。
振り向くまでもなく、その足音の主は斎藤の机に手をついて頭を下げる。
「一君!お願い!まじでお願い!数学の教科書貸して!!!!!」
斎「…平助。また忘れたのか?」
平「そうなんだよ!連続はさすがの新八っつぁんでも怒るだろ!?だからお願い!!!」
「ん…?」
平「え?」
「あああ!」
沖「うるさいよ、真尋ちゃん。」
千「もうすぐ先生来ちゃうわよ?」
大騒ぎしている私をクラス中が見ていた。
千と沖田が会話に加わると他のみんなもそれぞれの会話に戻る。
「昨日の…白馬さん。」
平「へ?馬?」
千「どうせ言うなら王子にしなさいよ、真尋…。」
沖「ぶっ…。相変わらずひどいね、真尋ちゃん。」
「うるさいな。」
だって昨日助けてくれた子がいきなり現れたら誰だってびっくりするって。
まさか同じ学校の子だったなんて。
しかも斎藤や沖田と友達みたいだし。
沖「残念だけどね、平助君。うちのクラス、今日数学ないよ?」
平「ええ!?教科書置いてってないのかよ!?」
沖「僕はともかく、一君は持ち帰るに決まってるじゃない。予習復習するんだから。」
斎「あんたも持ち帰れ、総司。」
平「じゃあ総司は持ってるのか?」
沖「持ってると言いたいところだけど、珍しく持ち帰っちゃったんだよね。」
平「ええええ!?」
「あ、私持ってるよ。かしてあげる、昨日の御礼に。」
平「まじで!?ありがとう!!」
私は自分の机から数学の教科書を引っ張りだすと白馬君…じゃなかった、平助君?に差し出した。
平「ありがとな!また後で返しに来るから!!廣瀬さん。」
「え?何で名前…。」
平「やべえ!先生が来る!」
そう言うと彼はものすごいスピードで教室を出ていった。
あまりの早さに驚いていると沖田が笑いながら話しだす。
沖「相変わらずだね。平助君は。あ、さっきの子は藤堂平助って言って僕達と同じ剣道部なんだよ。」
「そうなんだ?」
千「ちょっとちょっと!同じ学校だったなんてやっぱり縁があるわよー。」
斎「やはり、昨日絡まれていたというのはあんたか。」
「ええ!?何で知って…。」
沖「僕達、平助君と一緒だったからさ。絡まれてる子がいたって聞いてぴんときてね。一君は電話までしたっていうのに…。」
斎「…あんたは何の為に携帯を持ち歩いているのだ。肝心な時に電話に出られなければ意味がないだろう?」
「え?え??」
昨日も同じように怒られた気がする。あ、千から怒られたんだ。
「電話…してくれたの?」
斎「一応だ。俺のせいであんたに迷惑がかかるようなことはしたくない。」
沖「素直に心配だったって言えば良いのに。ねえ、千ちゃん。」
斎「総司!」
千「え?…ふーん、斎藤君、心配だったのね。」
ああ。沖田と千が組んだら斎藤でも勝てないと思うよ。ニヤニヤ笑ってるあの二人に斎藤が口では敵わないと思ったのかさっさと教科書を取り出して先生を待つ体勢になってるし。
「ありがとう。一。」
斎「俺は何もしていない。助けたのは平助だ。」
ぶっきらぼうに言う背中に思わず笑ってしまう。
はいはいそうですかと告げて私たちも席に戻った。
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