▽ 2
「…ということがありまして。」
千「一人で買い物もさせられないわけ!?」
「わ…私のせいじゃないじゃん!!!」
千と合流し、お昼を食べようとお店に入って注文をすませた後。
私はさっき起こった出来事を千に説明していた。
千「もう!携帯の充電が昼間っから切れてるってどういうこと?」
「あは…朝携帯でゲームしてて…。」
千「馬鹿!」
「ごめんなさい。」
千「でも、良い人が来てくれてよかったわ。いくら相手が女でも何されるかわかんないんだから。」
「そうですね…。」
売られたケンカを買おうとしていたことはこの際黙っておこう。そうしよう。
千「どんな人だったの?」
「え?」
千「だから、その助けてくれた男の子。」
「えっとね。小柄だったけど私よりは大きくて、なんか可愛い系の子だったな。元気いっぱいって感じの。笑顔が良くて。」
千「え?ちょっと名前とか連絡先は!?」
「…?何も。」
バンとテーブルを叩いて千が頭を抱えた。
一体どうしたの?とおそるおそる聞くとキッと鋭い目で私を見てくる。
千「だってその人、真尋のタイプじゃない!ああもう!運命の出会いだったかもしれないのに!白馬の王子様!!!」
時々思うけど千って乙女だよね。
白馬の王子様って…かぼちゃパンツ想像しちゃったじゃん。
「運命ってそんな…マンガじゃあるまいし。」
千「もう、すぐにそうやってマンガやゲームじゃあるまいしとか言う。そういう出会いは現実にもよく起こることなのよ。」
「そんなもんですかねえ。」
ずずっとストローでオレンジジュースを吸い込む。確かに出会いのシチュエーションとしては最高だよね。
危ないところを助けてもらうって。
だけど。
一瞬だけ。
ほんの一瞬。
助けに入ってきたのは…。
斎藤かと思っ―――――
「ぶふぁ!」
千「きたな!どうしたのよ!?」
オレンジジュースが気管に入って思い切りむせてしまった。
だって、今私。
私…変な事思いませんでしたか?ねえ??
―――――――――――――――――――――
「ごめんごめん!総司!一君!」
沖「遅いよ、平助君。どこまでトイレ探しに行ってたわけ?」
斎「ああ。すぐそこにあったはずだろう?」
総司と二人、エスカレーター付近の簡易椅子に座って待っていると息を切らしながら平助が走り込んできた。
今日は部活もなかった為、三人で映画を見に来ていた。
平「それがさー!方向間違えたらそこで女の子が他の女子三人に絡まれててさ。」
沖「へえ。女の子って怖いね、呼びだしって本当にあるんだ?しかもこんなところで。」
平「そうそう。無視するわけにいかねえだろ?」
斎「それで、大丈夫だったのか?」
平「うん。平気平気。なんか誰かと別れろだのなんだの言われてたぜ?ほんと怖えーよ。」
沖「別れろ…?ふーん。その子の彼氏、よーーーっぽどもてるみたいだね。ね、一君。」
意味あり気な総司の言葉に俺の脳裏を暢気に笑うあいつがよぎる。
仕方なく携帯を取り出し俺は廣瀬の番号を押した。
平「一君?」
沖「しー。今ね、大事な大事な相手に電話中だから。」
平「え!?だ…大事ってもしかして一君、彼女!?!?」
斎「違っ…、もしもし。」
――おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため…
無駄に力をこめて電源ボタンを押すと案の定、総司がニヤニヤとこちらを見ていた。
沖「でないの?心配だね〜一君。」
斎「心配などしていない。仮に廣瀬だとしてももう助かっているのだ。問題ない。」
平「廣瀬…?そういえばそんな名字で呼ばれてたような…。なあ、どういうことだよ!俺にも教えろって!!!」
また一人、事情を説明しなくてはならないようだ。
はぁと大きなため息が自然に零れると幸せが逃げるよと総司が俺の苛立ちを増幅させるようなことを告げた。
斎「…あいつは何故でないのだ。」
楽しい話が聞けるときらきらした目で俺を見ている平助にどこから説明をすればいいのか。
もういっそ面倒だから総司に任せてしまおうかと一瞬揺らいだが、どれだけ脚色されるかわからない。
実はと切りだすことになるのは映画が始まる十五分前のことだった。
やはり女子は…苦手だ。
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