▽ 1
(どうしよう…。)
「なんとか言いなさいよ。」
「あんたが斎藤君の彼女なの?」
「こんな普通な女だとは思わなかったわ。」
目の前には知らないお姉さんが三人。
どうやら近くの高校の人達みたいだけど…。
他校にもファンクラブとやらは存在するらしいです。
今日は久しぶりに千と近くのショッピングモールに買い物に来ていた。
一緒に服を見ていたんだけど千が彼氏のプレゼントを買ってくると言って少しだけ別行動をしていたのだ。
こんな時に限って携帯は充電が切れてて。
待ち合わせ場所も時間も決めてあるからま、いっかぐらいに思っていた五分前の私を殴りたい。
いきなり腕をひかれて人気のない階段の踊り場に連れてこられ…何だかいろいろ言われている。
どうやら斎藤のことが好きみたいだけど…何故私に絡むんだよ。本人に言ってくれよ。
「ちょっと、あんた聞いてるの?」
「あ、はい。」
「だから、あんたみたいな女じゃ不釣り合いだからさっさと別れろって言ってんだけど。」
「あの、人違いです。」
「はあ?人違いじゃねえよ。あんた廣瀬真尋でしょ?」
まじか。
私の名前は他校まで轟いてるんですか。
おそるべし、斎藤一ファンクラブ。
きつい香水の香りをぷんぷんと撒き散らしてきゃんきゃん吠えてくる三人に吐き気がしてきた。
本当は付き合ってないけど…そこまで言われる筋合いもないよね。
一対三か。
まあ逃げられるっちゃ逃げられる。ここショッピングモールだもん。
いいよね?
これ、もう言い返していいよね??
ゲームばっかりやってるオタクだと思うなよ。
あ、そんなに私のこと知らないか。
「黙って聞いてれば…。」
「何?」
「何か言いたいことあるわけ?」
うるさい!この…(自主規制)が!!!
と、私の叫び声が響き渡る前に。
「おい!」
いきなり目の前に人が割り込んでくる。
「え…?」
「どうしたんだよ。探してたんだぞ?」
「え?え?」
見たことのない人にそう言われてもどうしていいかわからない。
呆然としている私の腕を掴んで目の前に現れた男の子は三人の横を通り過ぎようとした。
「ちょ…待ちなさいよ!」
「私達その子に用が!!!」
「何の用?俺の彼女なんだけど。」
「え?だってその子は廣瀬…。」
「廣瀬?こいつそんな名字じゃないけど?」
「え!?ほ…本当に人違い?」
「嘘!本当に?」
「えっと…ごめんなさい!!!」
三人は慌ててその場を去って行った。
階段には私と彼だけが残される。
「…もう大丈夫か?」
「えっと…あの…。」
この人、誰だろう?私と同じ高校生ぐらいだと思うけど。何で助けてくれたんだろう?
「あ、ごめん。実はさ、トイレ行こうと思って間違ってこっち来ちゃったんだけどなんか絡まれてるみたいだったからさ。余計なお世話だったか?」
「いえいえいえいえ!助かりました!本当に!!!」
「そっか。女も怖えな、呼び出しとか。」
「本当ですよね。」
「もう大丈夫か?途中まで一緒に戻る?」
「いえいえ。友達と待ち合わせしてるんで大丈夫です!」
「あ!俺も待たせてるんだ!じゃ、気をつけてな??」
「ありがとうございました!」
「気にすんなって!」
彼は爽やかな笑顔を私に残してその場を去って行った。
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