偽恋ゲーム | ナノ

▽ 4



沖「まさか一君があんなにゲームに夢中になるなんてなー。」


斎「…負けたままというのは気にいらん。」


廣瀬達はそのままカラオケをしていくということで俺と総司は先に帰ることにした。
散々ゲームをした後だというのにあいつの体力はどうなっているんだ。


沖「一君、リズム感悪いね。」


斎「う…うるさい。」


沖「まあ練習したら良くなるかもよ。次は勝てるといいね。」


斎「次などない。俺はあのような場所に行くことはほとんどないからな。」


沖「へー。負けたままでいいんだ。」


斎「…。」


いちいち俺を煽ることが得意な総司は口角を上げて俺を見下ろしていた。


沖「それにしても…真尋ちゃんもひどいよねー。手加減なしというか…フルコンボだしまくりでさ。」

思い出し笑いをしている総司を横目に先ほどの勝負を思い出す。
格闘ゲームとは違い手加減などしにくいものであるとはいえ、あいつは手こずる俺の横でミスすることもなく太鼓を叩いていた。



俺に勝つ度に大喜びをしていたものだ。
その笑った顔につい何度も挑んでしまったのだが。



沖「真尋ちゃんってさ。すごいよね。素直なんだかおバカなんだか紙一重だけど。」


斎「馬鹿ではないだろう…。」


沖「え?」



―似合うとか似合わないとか、他人が決めることじゃないじゃん。好きなものを好きって言って何が悪いの?―


時々あいつの言葉に驚かされる。
俺の固定観念を簡単に壊していく。



―自分の好きなもの、似合うものを決めるのは自分だよ。だからこれは斎藤のね。黒猫は私がもらうから―



俺はポケットに入れたままにしていた猫のぬいぐるみを取り出した。
すると総司が珍しそうにそれを見る。


沖「どうしたの?それ。とったの?」


斎「あいつに言われてだ。」


沖「ふーん。で、もらったの?」


斎「二個とれたんだ。」


沖「良かったね。一君、猫好きでしょ?」


斎「ああ。」


沖(あれ?否定しない。いつもならそんなことないって言うのに。)


総司が猫を持ち上げてまじまじと見つめる。


沖「この猫、真尋ちゃんに似てるね。」


斎「は?」


沖「なんとなく。」


斎「…気のせいだ。」



どこが…と思ったがなんとなく掴めないところに猫っぽさを感じる。



沖「その気のぬけたような顔がさ。」


斎「…見た目か。」



再びポケットに猫をしまった。
なんとなく、家に飾ろうなんて考えてしまった自分が居る。
いや、あいつに似ていると総司が言ったからとかそういうことではなく。
何か、自分が変わるきっかけになる気がしたからだ。


沖「それにしても、真尋ちゃんのおかげで今日は一君の違った一面が見られて僕は楽しかったよ。」


斎「何の話だ。」


沖「おもしろかったってこと。一君は?」


斎「…まあ、あいつは変わった奴だとは思う。」


沖「それはまあみんな知ってるよ。」


斎「俺に良いところを見せようとしたり、俺を褒めまくる奴はたくさんいたが、ここまで本気で潰しにきた奴はあいつが初めてだ。」


沖「それ、褒めてるの?」


斎「さあな。」



そのままたわいもない話をして俺は総司と別れた。
その日から机の隅に三毛猫が居座ることになる。




斎「…よろしく頼む。」




つんと猫をつつくとふにゃりと笑った気がした。


つづく




おまけ↓↓






翌日


 「おはよー千、沖田。」


千「おはよう。」


沖「真尋ちゃんおはよう。」


教室につくと千の席の横に沖田が立っていた。
私も自分の席に座り会話に加わる。


沖「昨日はけっこう歌っていったの?」


 「二時間ぐらい。」


千「楽しかったね。」


沖「次はボーリングしようよ。」


 「いいよ。」


そんな会話をしていると近くの女子達の会話が聞こえてくる。


 「ねえねえ、斎藤君見て。」


 「あ、音楽聞いてる。珍しいね。」


私も千も沖田もその会話を聞いて斎藤を見た。
前の方の席で後ろ姿しか見えないがイヤホンが耳についていて確かに何か聞いているようだった。



 「なんだろう、洋楽かな〜?」


 「クラシックかもよ!」


 「似合うー!!」


女の子たちの黄色い声を聞き流しつつ。



 (あれ、絶対昨日のゲームの曲だ…)


沖(練習してる…)


千(悔しかったんだわ…)


朝から笑いをこらえるのに必死な三人でした。







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