偽恋ゲーム | ナノ

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放課後。
プリントを両手に抱えた千が私の席まで歩いてきた。

 「あーやっと一日が終わった!」


千「真尋は午後ぼーっとしていただけじゃない。」


 「え!?ばれた!?」


千「窓の外しか見てなかったでしょ。」


 「あはは…。」


 「ねえ、千。今日どっか行かない?甘いものでも食べようよー!」


千「いいわよ。あ、でもさっきの授業で集めたプリント、先生のところに持っていかなくちゃいけないからちょっと待ってて。」


 「はーい。」


千「じゃあ裏門のところで待ってて。すぐいくから。」


 「うん。」


千と別れ、裏門の方へ向かう。
体育館の横を通り過ぎると部活をしている人達がたくさんいた。
走り込んでいたり、何か話をしていたり。


 「青春だなー。」


沖「また独り言?真尋ちゃん。」


 「ぎゃああ!」


後ろからぽんと肩を叩かれ、思わず叫ぶ。
振り向くと、っていうか振り向かなくてもわかったけど沖田が立っていた。


沖「…だから、その驚き方どうにかならない?」


 「仕方ないじゃん。びっくりしたんだから。沖田は部活?」


袴姿で竹刀を持っているんだから聞くまでもないんだけど思わず聞いてしまった。


沖「うん。」


沖田と並んで体育館を通り過ぎ、剣道場の所まで歩いてきた。


沖「少し見て行く?」


 「え?いや、でも千と待ち合わせしてるから。」


沖「裏門のすぐ横なんだから大丈夫でしょ?ほら、ここからなら外から中が見えるよ。」


沖田に言われて剣道場の入口の所に立った。
扉が開いたままになっていて中が見える。
すでに何人かの生徒が防具をつけて稽古をしていた。


 「沖田って強いんだっけ?」


沖「まあね。一番か二番かな。」


 「え!?そんなに強いの?」


沖「…一応大会で優勝とかしてるんだけどな。表彰されたこともあるんだけど???」


 「いたっ痛い痛い!」


沖田がぐいぐいと竹刀の柄でわき腹を突いてくる。
知らなかったんだって!
全体朝礼とかで確かに時々表彰されている人がいた気がするけどほとんど夢の中だし。


沖「まあ、優勝は奪い合いだけどね。いつも。」


沖田が視線を剣道場の中に戻した。
その先を追うと防具をつけた二人が試合をしている。
お互い相手の出方を窺うように動かなかった、が。


 「っ!」


沖「面あり。」


一瞬だった。
気が付いたら片方の竹刀が相手の面を打ち、通り過ぎて行く。


瞬間移動みたい。
あんなに速く、遠くへ飛び込めるんだ。



沖田の言うとおり、面が入ったのかお互いに礼をすると下がっていった。


 「あの人がもう一人の強い人?」


沖「あの人って…。真尋ちゃん。名前見えてないの?」


 「え?」


防具についている垂に書かれた名前を見て息が止まる。


 「斎藤?」


沖「うん。一君だよ。」


斎藤は座って面を外し、手ぬぐいで汗をふいていた。
防具をつけて試合をしていたというのに涼しげに見えるのは綺麗な顔立ちのせいか。


私達の視線に気がついたのか斎藤がこっちを見た。


沖「あ、そろそろ戻らないと。怒られちゃうや。じゃ、千ちゃんによろしくー。」


 「うん。がんばって。」


沖田が礼をして道場の中に入って行く。
すると入れ違いに斎藤が入口の所まで出てきた。



斎「どうした?」


 「え?何が?」


斎「何か用があるのではないのか?」


 「別に…。裏門で千と待ち合わせをしてるんだけど、沖田とたまたま会って中見てただけで…。」


あ。
そうか。普段こない私がいきなり来たから何か用があると思ったんだ。
一応…彼女だからね。


斎「そうか。」


 「あ、斎藤!」


そう言って中に戻ろうとする斎藤に何故かよくわかんないけど声をかけてしまった。



斎「何だ?」


 「さっきのすごかった!瞬間移動みたいで!」


斎「…瞬間移動などではない。俺は面を打っただけで…。」


 「わかってるよー。だけど一瞬だったからさ。剣道ってよくわかんないけどすごいってことだけはわかったよ!また試合しないの?」


斎「さっきのは総司が来るまで時間があったから手合わせしていただけで、今日は稽古のみだ。」


 「そっか。残念。」


もう少し見てみたかったんだけどな。試合。
稽古している姿もすごいけど試合ってやっぱり独特だし。


斎「…今度。」


 「?」


斎「試合をやる時は連絡する。自由に見に来ればいい。」


そう言って斎藤は中へ戻っていった。
意外。
部活の様子を見られるとか絶対嫌がりそうなのに!!!
でもまあ、いっか。


千「真尋ー!ごめんお待たせ!…剣道部見てたの?」


 「あ、千。うん、沖田と会ってさ。」


千「なーんだ。斎藤君見に来たのかと思った。」


 「斎藤も見たよ。すごかった。」


千「へえ〜。かっこよかった???」


なんか千、楽しそう?
申し訳ないけど期待にこたえられないよ。


 「かっこいいっていうか…すごかった。強いんだよ、あいつ。」


千「もー。強いことなんてみんな知ってるわよ。」


やっぱり私の答えが不満だったのか千が口を尖らせた。

あ、やっぱりみんな知ってるんだ。
ごめん。斎藤、沖田。次からは朝礼ちゃんと起きて見てるよ。



その後、私達はケーキを食べにカフェに行った。
待っている間、なんとなくケータイで剣道を調べていると千がニヤニヤしながらからかってくる。


千「あれあれ?やっぱりかっこよかった?斎藤君。」


 「ちーがーいーまーす!純粋に剣道に興味を持っただけで…。」


千「あー照れるな照れるな。うんうん、お姉さんは嬉しいよ。」


 「だから違うって!!!」



どんだけ否定してもニヤニヤするだけの千に疲れ、最後は無駄な抵抗を諦めた。




次にまた部活を見に行ったら何て言われるかわからない。
こっそり見に行かなくちゃな…なんて考えてしまう自分がいた。



つづく




おまけ↓↓


沖「真尋ちゃん、そろそろ三次元で恋しないとまずいんじゃない?見える未来は孤独死だよ。」


 「うっうるさいよ!」


沖「ドキドキしたり恋したりしたことないなんてどんな人生送ってきたのさ?」


 「あ…新太君にはドキドキするし、実際に会えなくて苦しいけど!」


千「それは違うわよ。」


斎「まあ俺も人のことを言えたものではないな。」


沖「え?一君もついに二次元?」


斎「そうではない!恋愛をしていないという点で…。」


 「斎藤!私女の子に恋するゲームも持ってるから今度持ってくるね!あ、ゲーム機ごと貸してあげるから!!!」



斎「必要ない。嬉しそうに俺を見るな。」


千「…仲間だと思ったのね。」







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