偽恋ゲーム | ナノ

▽ 3



――ピンポーン


玄関のチャイムの音にびくりと体が反応する。
なんとなく朝から落ち着かなかったけれど私以上に両親がそわそわしていた。(特に父)


 「あ、来た。はーい…。」


ソファから立ち上がり玄関へ向かおうとした時にはすでに父が風の如く玄関へ走り出していた。



 「…お父さん。」


母「あら、お父さん嬉しいのね。」


 「うん、違うと思う。」



お母さんと後から玄関へ向かうとすでに斎藤が立っていた。


斎「お邪魔します。真尋さんとお付き合いさせていただいてます、斎藤一です。」


父「君が…本当に真尋の彼氏なのか?」


母「あら、本当にかっこいい子ね、真尋。」


 「お父さん、お母さん、お願いだから部屋に戻って…。」


悲しみに打ちひしがれている父と興奮気味の母に挟まれているのに斎藤は相変わらずの冷静さで手土産を渡していた。


 「じゃあ部屋いくから。あ、斎藤こっち。」


斎「ああ。」



対照的な態度の両親を玄関に残し、私たちは二階へ続く階段をのぼっていった。



部屋に入り上着をかけるハンガーを手渡した。私がドアを閉めようとすると今まで黙っていた斎藤が口を開く。


斎「開けておけ。」


 「え?なんで?」


斎「あんたの親父さんが心配するだろう。」


 「そう?」


斎藤は荷物を置いてローテーブルの傍に敷いてあったクッションの上に座った。
私も近くに座る。


心配も何も私達付き合ってないから何にも起こらないんだけどね。
でもそういう気遣いできるってすごいな。


 「昨日は驚いた。電話きたから。」


斎「家を知らなかったからな。」


 「ってか電話できるじゃん。普通に誰かと付き合いなよ。」


電話やメールが面倒だとか言ってたのどこの誰だったかしら?と呟くと斎藤は荷物から勉強道具を取り出してテーブルに並べながら言った。


斎「用のある電話やメールはできるが特に何もないのにするということが理解できない。」


 「そうっすか。」


これじゃたとえ付き合えても彼女は辛いだろうね。


 「勉強するつもり?」


斎「…来週から期末だぞ。随分余裕があるようだな。」


 「余裕があるんじゃない!諦めている!」


斎「威張るな。」


 「そういえばゲームいつ返してくれるの。あれがないと続きができないよ、新太君。」


ひらひらとゲームの入っていたケースを斎藤に見せるように動かすと斎藤はちらりとそれを見た後すぐに視線を教科書に戻した。


斎「…あんたが期末で順位あげたら考える。」


 「ええ!?何それ、最初と話がちが…。」


斎「廣瀬。」


 「へ?」


いきなり斎藤が私の腕を掴んで自分の方へ引っ張った。真横に斎藤、目の前のテーブルには教科書。何が何だかわからないでいると部屋に近づく足音が聞こえた。



母「真尋。お茶持ってきたわよ。あら、ドア開けてて寒くない?」


斎「いえ、大丈夫です。ありがとうございます、いただきます。」



母「ほんと斎藤君は礼儀正しいわ〜。あら!勉強してるの!?真尋が教科書開いているのなんて久しぶりに見たわ。」


斎「来週から期末テストが始まるので。」


母「よろしくね、斎藤君!勉強ができる彼氏ができてよかったわ。」



そう言うとお母さんはお茶とお菓子を置いて嬉しそうに去っていった。



斎「…彼氏ができればゲーム解禁とはいえ成績が急降下したらまた禁止されるぞ。」


 「お母さんがくると思ったから勉強してるフリしてくれたの?」


何それ。優しいじゃん。
確かに成績があまりにもひどいとまた没収されかねない。
斎藤は私から少し距離をとって座り直すと参考書を開いて問題を解き始める。
こちらを見ることもなく口だけを動かした。


斎「少しは安心させてやれ。」


 「はあ…。わかったよ。」


私も諦めて自分のカバンから教科書を取り出すとパラパラと試験範囲を眺めた。
広い。なんだこの範囲。範囲っていうかほとんど全部じゃないか!


 「もうくじけそうなんですけど。」


斎「…ノートに一文字も書いていないが。」


 「だって嫌いだもん。数学。」


そう言うと斎藤は大きくため息をつき、私から教科書を取り上げるとパラパラと捲りながらシャーペンでチェックを入れていく。



斎「チェックいれた問題だけとりあえず解いてみろ。」


 「え!?もしかしてこれは絶対でるよ!ってやつ!?」


斎「絶対とは言えないが八割方でるだろうな。」


 「斎藤様〜!!!」


斎「早く解け。」


ありがたい!
持つべきものは頭の良い偽物彼氏だね!

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