偽恋ゲーム | ナノ

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教室までの廊下を歩いて行くと何故か視線を感じた。
数人の女の子がちらちらとこちらを見ている気がしたけど何でだろう。


そういえば斎藤が言ってたけど。


――俺達の関係が認識されたらゲームを返す


それって長期戦じゃない?
だって私が自ら斎藤と付き合うことになりましたー!!!なんて言わないし。
斎藤が彼女ができたと公言する姿も全く想像がつかない。


あれ?
これじゃいつまでたっても周りに知れ渡るなんてことなくないですか?


 「だめだそんなの!どうしよう…。」


沖「朝から独り言ってかなり不気味だよ、真尋ちゃん。」


 「うわあああ!」


沖「もっと可愛く叫べない?」


 「朝から感じ悪いな、あんた。…ってか沖田!!!」


沖「ん?」


廊下で立ち止まり沖田の肩を掴んだ。


 「斎藤に何言ってんのよ!私が三次元に興味ないとか失礼な!」


沖「え?事実でしょ?」


 「違うわ!興味のある男の子が現在三次元に存在しないだけだ!」


沖「どう違うの?」


ちっ…昨日の斎藤と同じことを…。
いや、こいつの場合わかってて言ってるな。


沖「まあ、でも恋人になったんでしょ?おめでとう。」


 「は…?何で知って…。」


沖「僕の場合は一君から聞いたけど…もう知れ渡ってるんじゃない?」


そう言って沖田は教室のドアを開けた。
するとクラスメイトの視線がこっちに集中する。


 「え?」


千「ちょっと!真尋!!!!!」


真っ先に私の所に走ってきたのは千だった。
私の腕を掴むとぐいぐいと席まで引っ張っていく。


千「斎藤君と付き合うことになったって本当!?」


 「ええ!?」


教室中がざわめいた。
みんな真相を聞きたいって顔に書いてある。
ちょっと待って。
どうして知ってるの?!



 「ど…どうして。」


千「噂が広まってるよ。」


まじか。
昨日の放課後の出来事が今日の朝に広まってるってどういうことだ。
あ、もしかして斎藤に告白してきたあの子が誰かに言ったのかな?それがまわりにまわって…?


沖「一君もファンクラブあるからね。情報がまわるのは早いと思っていたけれど…相手が真尋ちゃんってことまでわかるなんてすごいね。」


横で沖田が笑いながら言う。
いや、笑いごとじゃないよ。少し怖いんだけど。



千「ねえ、本当なの?真尋。」


 「あの…。」


千の問いかけに周りにいた女の子達も何人か集まってきた。


 「真尋ちゃん!斎藤君と付き合ってるの!?」


 「いつの間に仲良くなったの??」


 「斎藤君が女の子と話してる所ってほとんど見たことなかったから意外〜。」



次々と質問が飛んできて答える暇すらない。
みんな斎藤が好きというよりは珍しい事件に興味津津といったところだろう。


 「あ…あの…。その…。」


思わずしどろもどろになってしまうとそこに少し低い声が響いた。



斎「廣瀬。」


 「はい!?」


女の子たちの向こう側から確かに声がした。
みんな道をあけるように私の机から離れると斎藤が立っていた。



斎「すまない。少しだけ廣瀬をかりてもいいだろうか?」


斎藤が周りにいた女の子たちに声をかけた。
滅多に話しかけてくることなんてない斎藤に声をかけられたことに驚いたのかみんなどうぞどうぞと離れていく。



斎「ありがとう。」


女子「「「!!!」」」


これまた滅多にお目にかからない斎藤の微笑みにみんなの目がハートになっている。



…だまされてますよ、皆さん。




斎「廣瀬。」


 「あ…うん。」


斎藤は私と視線を合わせるとくるりと踵を返し教室を出て行こうとした。
慌てて私も追いかける。


 「斎藤?授業始まるけど…。」


斎「あのように聞かれた時はしっかりと肯定してくれないと困るのだが。」



誰もいない廊下で突然立ち止まった斎藤は昨日と同じペースで話す。


やっぱりさっきの微笑みは作りものか。
少し口角上げただけじゃん。
なんでみんなハートになるんだよ。
詐欺罪で訴えてやる、絶対勝てるからな!



 「だっていきなりでびっくりして…。」


斎「次は肯定してくれ。」


 「うん。…でもなんか嘘つくのって気が引けるんだけど。」


斎「…。」


ちらりと斎藤を見ると相変わらずの無表情。
だって嘘つくのって嫌だ。
しかもたくさんの人をだますなんて。


斎「ではゲームを先生に…。」


 「うわああああ!がんばります!がんばらせていただきます!!!」


斎「そうか。」


あ、笑った。
いや、笑ったなんて可愛い表現じゃない。
したり顔だ、したり顔。


 「ねえ、沖田は知ってるの?朝恋人になったんでしょって言われたけど…。」


斎「総司はふりということを知っている。」


 「じゃあ千には本当のこと言っていい?良いよね!?」


斎「…信頼できるか?」


 「できる!間違いない!」


斎「まあ俺だけ総司に本当のことを言っているのはフェアではないからな。あんたが信頼できるならいい。」


そう言うと斎藤は教室に入って行った。
慌てて私も追いかける。
他のクラスメイトに何か聞かれる間もなく永倉先生が入ってきて一時間目が始まった。

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