▽ 1
斎藤の彼女になった。
…ということは夢だったんじゃないかなって思う。
ベッドからゆっくりと起き上がりカーテンを開けた。
綺麗な青空が広がっていたのを確認して制服に着替える。
部屋を出ると朝食に香りが漂っていてその香りにつられるようにリビングに入っていくとお母さんが目を丸くして立っていた。
「…おはよ。」
母「あら、珍しい。起こす前に起きてきた。」
「うん。いただきます。」
テーブルに並んでいた朝食に手をつける。
ゆっくりと食べながら昨日のことを思いだした。
――俺と付き合ってるふりをしてほしい。
――偽物の恋人ということだ。
淡々と語る斎藤の顔がプレイバックする。
どう考えても夢にしか思えない。
だって今までほとんど話したこともないのに。
そんな相手に恋人のふりをお願いするなんて。
…いや、お願いというより脅しだったけれど。
「適当に誰かと付き合えばいいのに…。」
母「え?」
「あ、いやなんでもない。」
あ、そうだ!
大事な事を忘れていたよ。
彼氏ができたって言わなきゃ。
私の穏やかなゲーム生活が帰ってこない!
ポータブルタイプは斎藤にとられたまんまだし。家にあるやつだけでもできるようになりたい。
「お母さん!私彼氏ができた!!!」
手を挙げる勢いで私が叫ぶ。
少し離れたところで新聞を読んでいたお父さんがコーヒーを吐き出していたのは見ないふりをしよう。
母「は?」
「だーかーら!彼氏できたんだって!だからゲーム解禁ね。」
笑顔でそう言ってお味噌汁に手を伸ばす。
すると母が疑いの眼差しでこっちを見ていた。
信用してない!絶対!!!
「ほっほんとだよ!?」
母「あんた…いくらゲームがしたいからって…。」
「違う違う!本当だってば!!!」
父「真尋ー!!!本当なのか!?本当に彼氏が…。」
「お父さん静かに!」
母「次のテストがんばりなさい。そうしたらゲームしてもいいから。」
ああ!
なんか哀れみの目になってる!
そんなに彼氏ができなそうか!?失礼だな、親なのに。
「もう!いってきます!!!」
半泣きのお父さんを華麗にスルーして私は家を飛び出した。
言葉だけじゃ信じてもらえない。
だけど証拠も何もない。
だってメアドどころか番号すら知らないし。
なんなんだ!
私全然メリットを感じることができないんですけど!?
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