原田家の場合


「ママ!行ってらっしゃい!!」

「僕達お利口にお留守番できるからね!」

「俺もいるから心配するな。楽しんでこいよ。」


目をキラキラさせた娘と息子、そして優しい夫に見送られ出かけたのは朝のこと。
久々に高校時代の同級生からお茶に誘われ、行くかどうしようか迷っていたら左之助さんにたまには息抜きしてこいと言われたんだよね。
私は正直今の生活に疲れてもいないし、子供達のことも心配だから行かなくてもいいかなと思っていたんだけど。


「私ママの代わりにお片づけするー!」

「僕は洗濯ものたたむー!」

「おう、頼むぞ。二人とも。」


なんて、言われたら微笑ましくて。
たまにはいいかと出かけたのだ。



「それにしても、今日旦那さん休み?出てこれてよかったわね。」

そう言ったのは同級生の千だ。彼女はまだ独身でバリバリ働くキャリアウーマン。
その向かいに座っている菊もまだ独身で働いている。

「ええ。そうね。まだ子供が小さいから難しいかなと思ったけれど…。」

「うん、迷ったんだけどね。左之助さんにたまには行ってこいって言ってもらえて…子供達も留守番できるってはりきっちゃったから。」

「幸せを絵にかいたような家庭よね、あなたの家は。」

「そうかな?幸せだけど…千や菊みたいに働いてるのも尊敬するし、ちょっと憧れる。」

「仕事は楽しいけど上司はむかつくわよ。」

やれやれとため息をついて千が紅茶に口をつけた。
仕事をしてるって本当にストレスたまるんだろうな。今日は彼女達の話を色々聞いておかなきゃ。いつか仕事に復帰するかもしれないし参考にね。

それぞれの近況を話しているうちに頼んでいたケーキが運ばれてきた。


「わー美味しそう。」

「ここのケーキ有名なのよね。」


千と菊が目を輝かせている。
本当に美味しそう。
家で作れるものとはやっぱり違うよね。
左之助さんや子供たちにも食べさせてあげたいな…。


「ふふ、テイクアウトできるわよ。」

「え?」


千がニヤニヤしながらケーキを頬張った。


「だって左之助さん達に食べさせてあげたいなーって顔しているんだもの。」

「本当ね。買って帰ってあげたら喜ぶわ。」


菊まで笑ってる。
うう…友達と話している時は家のこと考えないようにしようと思っていたのに。
やっぱり思い出しちゃうんだよね。


「じゃあ帰りに買って帰ろうかな。…で、千や菊は良い人できた?」


少しでもみんなと楽しく話そうと、盛り上がること間違いなしの恋愛トークをきりだした。




「じゃあそろそろ解散しましょうか。」

「ええ、そうね。楽しかったわ。」

「あ、ケーキ買わなきゃ!」

「そうよ、ケーキケーキ。私も買っちゃおうかな〜。」


結局私だけではなく千や菊もケーキをテイクアウトし、私達は解散することになった。
お茶した時間は二時間ぐらいだけどたくさん話せて楽しかったし良い気分転換になったかも。


私は左之助さんに帰ることを伝えるメールを送り、家へと歩き出した。



「ただいま!」

「おかえりー!」

「おかえりなさい、ママ!」

「楽しかったか?」


家に帰ると三人が迎えてくれる。
ああ、私って幸せだななんて思いながら子供達に抱きついた。


「ほら、ケーキ買ってきたよ。みんなで食べよう。」

「わ!ケーキ!」

「ママ!ケーキはご飯の後だよ!!!」

「え?」


夕方とはいえまだ五時。もうお腹すいたのかしら?


「お腹すいた?急いでご飯作る…。」

「違うよー!早くこっち来て!」

「こっちこっち!」


娘と息子に両腕をひかれる。左之助さんを見るとやれやれと言った感じで笑っていた。
リビングに入ると部屋が綺麗な折り紙で飾り付けられていて、テーブルの上にはカレーライスとサラダ、スープが置かれていた。


「これ…。」

「ママに作るんだって二人がはりきったんだぜ?俺はほとんど見ていただけだ。」

「二人が作ってくれたの?」

「ママ、いつもご飯作ってくれるから。」

「僕サラダ作った!」

「私カレー作ったよ!難しいところはパパに手伝ってもらっちゃったけど…。」


野菜の形はいびつ。サラダのきゅうりもだいぶ大きいけれど…
こんなに嬉しいご飯あるのかな?


「ママ、泣いてるの?」

「大丈夫だよ!パパが味見してるから!」

「おいおい、俺は毒味係だったのかー?」


左之助さんが苦笑いで息子を抱き上げ、空いている手で娘の頭を撫でた。


「ううん、ママ嬉しいの。冷めないうちにみんなで食べようか!」

「うん!食べよう!」

「あ、僕飲み物とってくるー!!」

「私も手伝うー!!!」


バタバタと冷蔵庫へ向かう二人を目を擦りながら見ていた。
するとぽんっと頭に左之助さんの手の感触。


「何だか見ていて俺も泣きそうになったよ。」

「どうしよう、すごく嬉しくて大泣きしたい。」

「おいおい、やめてくれよ。俺が何かしたと思われるだろ?」

「ふふ。幸せでも涙がでるんだよって言うもん。」

「ああ、そうだな。俺はいい嫁さんと子供に囲まれて幸せだ。」


ダッシュで飲み物とコップを持ってきてくれた二人をテーブルにつかせ、みんなで揃っていただきますを言った。
こんな日々がずっとずっと続きますように。


――今までで一番美味しい食事――


(ママ美味しい?)

(僕のサラダも美味しい?)

(うん、全部美味しくてママびっくりしちゃった!)

(やっぱ子供はいいよな…もう一人ぐらい増やすか?)

(ええ!?)

(え!?パパ!僕弟がいい!)

(えー私妹!)

(そうかそうか。こりゃがんばらねえとな。)

(うぅ…恥ずかしい。)





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