藤堂家の場合



「わーい!お父さんに勝ったー!!」

「強くなったなーお前。」


私がのんびりとお茶を飲んでいる前で繰り広げられているのはゲーム大会。
テレビの前で二人並んでマリオ○ートしている姿はここ最近の休日で良く見る光景だ。
後姿がそっくりだなあなんて思わず笑ってしまう。


「お母さん!見た!?お父さんに勝った!!」

「見たわよ。すごいわねー。」


嬉しそうに報告してくる息子が可愛らしい。
本当は平助君が手加減してるんだけどそこは言っちゃだめだもんね。
息子の頭を撫でながら平助君を見ると彼も嬉しそうに笑っていた。


結婚してすぐに子供に恵まれた私達。
息子ももう幼稚園に通うようになって本当に時間が流れるのは早いよねなんて年寄りみたいなことを言っている。
五歳になった息子はやんちゃで手がかかるけどこうして平助君がいたら相手をしてくれるから私はとても助かるんだよね。
やっぱり男の子はお父さんと遊ぶのが好きみたいだし。



「ねえねえお父さん!もう一回勝負しよう!!」

「おう、いいぞ。」

「でね!僕が勝ったらお願いがあるんだけど…。」

「何だ?ゲーム欲しいはだめだぞ、これ勝ったばっかだし…。」


人のこと言えないよ?平助君。
君も昔はゲームばかりしてよく怒られてたってお義母さんから聞いてるからね〜。
そんなことを考えていると息子は首を横に振った。


「違うよ。僕が勝ったら明日お母さんとデートしてきていい?」

「へ?」

「は?」


息子の言葉に食べようとしていたお煎餅を思わず落とした。
デートって言った??


「僕が勝ったら、明日お母さんと僕は水族館!お父さんお留守番!!」

「ちょ…何で俺留守番だよ!?」

「留守番しておうちのことするんだよー。いつもお母さんばかりご飯作ったり掃除したりしてるんだからさ。俺の友達のお父さんはお手伝いするって聞いたぜ?」


幼稚園でそんな話してるんだ…。
そういえば斎藤さんの旦那さんは家事を何でもこなすって言ってたし、原田さんの旦那さんも料理は完璧って言ってたなあ。
平助君もできなくはないけど私がお願いしないから最低限のお手伝いしかしてないもんね。


「だからってなあ…。デートって…。」

「だってお母さんと俺の二人ならデートじゃん!ね?勝負!!」


そう言うと息子はゲームをスタートさせる。


息子とデートかぁ。素敵な響きかも。
そんなこと言ってくれるの小さいうちだけだもんねぇ。平助君には申し訳ないけどちょっと嬉しかったり?


「うわっ!お父さんずる!!」

「ずるくねえ。アイテムはちゃんと使わないとなぁ?」


あ、平助君が悪い笑顔になってる。
もう本気モードじゃん。大人げない。
勝負はあっという間だった。
もちろん平助君が圧倒的な差をつけて勝利。


「お父さんずりー!!!」

「勝負の世界は厳しいんだよ。これが父さんの実力な。」

「何だよ、さっきは本気じゃなかったわけ??」

すっかりご機嫌斜めの息子の頭をわしゃわしゃと撫でまわして平助君が笑った。

「ばーか。譲れないものがある時は負けられないんだよ。母さんは俺の嫁さんだからお前でもデートは許さねえの。…水族館は三人で行くぞ?」

「え?連れてってくれるの?」

「ああ。その代わりゲームは終わり!今から俺とお前で部屋の掃除と風呂掃除しまーす!」

「え?」

「そうしたら明日母さんが楽できるだろ?ほらゲームしまえ!」

「わかった!!」


息子がゲームを片付け始め、平助君は私の方を向いて笑った。
明日水族館楽しみだな!なんて…もうどっちが子供かわかんないよ。

だけど実は嬉しかったんだ。
母さんは俺の嫁さんだからお前でもデートさせないだなんて。
まだ私を特別に見てくれてるんだね。
今日のご飯は少し豪華にしちゃおうかな。



――大人げないけど憎めない――


(ねえ、お母さん。今度は動物園でデートしよ?)

(お前!だから母さんは俺としかデートしないんだよ!!)

(どうしてデートしたいの?)

(練習!!デートしたいって言われたからさ。)

(誰にだよ??)

(えーっとね…。沖田と斎藤!二人ともデートしてみたいんだって。)

(どうしよう平助君。沖田さんと斎藤さんにうちの子、殺されるかも。)

(…命がおしかったらその二人とだけはデートすんな。いいか?)

(???)








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