土方家の場合



沖田さんのおうちでお茶をご馳走になっていた時のことだった。
斎藤さんの奥さんから相談を受けた。
娘のこととなると心配性で娘の成長が見えると泣いて娘が嫁に行くのを想像しただけで泣くとか。
どこの家もそうなのかしらとクスクス笑っていて、沖田さんの奥さんもそれを聞いて笑っていた。

「うちはそこまでじゃないですけど悪い虫がつかないようにとか言うんですよ。まだ幼稚園児なのにね。」

「最近の子はませてるからね。うちなんて男の子の名前がでただけでどんな奴だ?どこに住んでいるとか質問攻めだったもん、一。」

「土方さんはどうなの?やっぱり娘だとみんな心配なのかな?」

「うーん…うちはそこまで…。」

「まだ幼稚園児だもんね。」


そんな会話はしばらく続き、いつの間にか夕飯の献立の話になっていて。
そろそろ幼稚園にお迎えに行こうかと私達は沖田さんの家を出て幼稚園に向かった。
子供と合流してからはそれぞれの家に帰ったんだけど…。

「ママ?どうしたの?」

「え?あ、ううん。ご飯何にしようかなーって。」

「じゃあハンバーグがいい!」

「ハンバーグね。いいわよ。」

「わーい!あとねあとね沢庵!!!パパが喜ぶから。」

「はいはい。」

ぴょんぴょん飛び跳ねる我が子を可愛いわと思う私も親ばかだな。
トシさんは沖田さんや斎藤さんの旦那さんとは少し違うみたい。
悪い虫がーとも言わないし、娘の成長は素直に喜んでいる。
でもそれってきっと…。


「パパ早く帰ってこないかな!!」

「そうね。」


うちの娘がパパっ子だからかもしれない。
パパが一番大好きなんだよね、この子。
だから家でも幼稚園の話はするけれど男の子の名前なんてほとんど出ない。
一度聞いたことがあるんだけどいつも女の子と遊んでいるらしい。
男の子とも遊びなさいって言ったんだけど


『だってパパよりかっこいい子いないもん。私パパがいるからいいのー。』


って言ってたんだよね。
私は心配だし、トシさんもみんなと遊ばなきゃ駄目だとは言っていたけど…
内心めっちゃ喜んでるのバレバレだからね。
しばらく抱きしめてたもんね。


多分今の所、娘の中の一番が自分だから安心してるんだろうなぁ。
今だけなんだよ?とは言えない…そんな残酷な事。


夕飯の準備をしているとただいまと声が聞こえてきた。
娘も気がつくと一目散に玄関へ走って行く。


しばらくすると娘を抱っこしたトシさんがリビングに入ってきた。


「早いねー今日は。」

「ああ。珍しく仕事が片付いた。ゆっくり家で飯を食いたいからな。」

「パパ!今日はハンバーグとね、沢庵!!!」

「うまそうだな。」


パパが早く帰ってきて嬉しいのかはしゃぐ娘にトシさんが目を細める。
スーツの上着をハンガーにかけると娘と遊び始めた。

まあ…今はパパが一番でいっか。幸せな事だし。
そんなことを考えながら夕飯の支度を進めた。


ハンバーグも焼き終わり、後はテーブルに並べるだけ…といった時に事件が起きた。


娘の鳴き声とトシさんの焦ったような声がリビングから聞こえ、私は慌ててキッチンからリビングへ向かった。

「どうしたの?」

「えーーーーん!パパがお人形壊しちゃったの!!」

「わ…悪かった!今なおしてやるから…。」

「うわーーーん!!!パパのばかああ!だ…大嫌い!!!」


あ…。
今初めて大嫌いって言葉が…。


「こーら。パパもわざとじゃないのよ。そんなこと言っちゃ…。」

娘を抱き上げ頭を撫でながらそう言う。そして視線をトシさんにうつすと…。

「と…トシさん?」

生きてますか?
ぴくりとも動かないですけど生きてますか?
まさか!!嫌いって言われたショックで死んだんじゃ…!!!

って思うぐらいトシさんは座って目を開いたままぴくりとも動かなかった。


「トシさん!?生きてる!?」

「ぱぱぁ…?」


ぴくりとも動かないトシさんを娘も心配になってきたのか涙をぼろぼろこぼしながら私の手からすり抜ける。


「パパ!パパ死んじゃヤダあ!!本当は大好きだよ!パパが一番好き!!」


そう叫んでトシさんに娘がしがみついた瞬間。
まるで復活の呪文だったかのようにトシさんが動いた。


「死なねえよ。お前残して死ねるか。人形…なおすからな。ごめんな。」

「いいよ!パパがいればいいもん!」

「う…。」


あ。
斎藤さん、うちの人も意外と泣くみたいです。涙目です。
今度教えてあげよう。


「はいはい。じゃあご飯食べるよー!準備して!」

「はーい!パパのご飯は私が運ぶー!!」


そう言ってキッチンへ走って行った娘を目頭抑えながら見つめているうちの夫は会社では鬼部長と呼ばれているらしいんだけど…。
今度動画をとって会社の人に見せてあげようかしら…夫婦喧嘩した時には。



――鬼の目にも涙――


(土方さーん。娘さんに大嫌いって言われたらしいですね。)

(なっ…総司!何でそれを!!!)

(土方さん!…心中お察しします!!仕事は引き受けますのでゆっくり休んでください!!!)

(斎藤まで…。嫌いじゃねえ!大好きって言われたんだよ!!)

(はいはい。娘に嫌われたショックで寝込んでくださいよ。あとは僕達にまかせてください。嫌いなんて言われたことない僕達にね。)

(総司!!傷をえぐるようなことを言うな!!土方さんは傷心の身…。)

(お前ら元気が有り余ってるみたいだから残業しろおおお!!!!)








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