思い出D彼とお化け屋敷



「本当に入るんですか…沖田先輩。」

「ここまで来て何言ってるのさ。ほら、行くよ。」

「や…やっぱり無理ですぅうぅぅうううう!」


涙目で叫ぶ私をそれはそれは楽しそうに引きずって。
沖田先輩は暗闇へと歩き出した。


事の発端は夏休み前。
部活の先輩である沖田先輩と斎藤先輩、藤堂先輩と話していたのが始まりだ。


「なあ知ってるか?あのテーマパークのお化け屋敷リニューアルしたんだって!」

「へえ、平助君行ってきてよ。おもしろかったら教えて。」

「なっ何で俺だよ!」

「だっておもしろくないなら行きたくないし、一君じゃどんなに怖いお化け屋敷でも怖がらないじゃない。それじゃ参考にならないし。」

「じゃあ今週末行こうぜ、三人で。」

「えー。」

「俺は予備校がある。二人で行ってきてくれ。」


藤堂先輩が近くのテーマパークの話を持ち出した。
斎藤先輩は興味なさそうに参考書をぱらぱらとめくっていて、沖田先輩はだるそうにいちごみるくを飲んでいた。
それにしても部活終わった後にあんな甘いもの飲めるなんて本当甘党だな、先輩。


「僕もパス。だって平助と行っても平助が怖がるだけだし。」

「なっ!別に怖くねえよ!!…じゃあいいや。なあなあ。」

「はい?」

拗ねたような表情で沖田先輩に背を向けた藤堂先輩は私に声をかけてきた。


「お前一緒にいかね?お化け屋敷だけじゃなくて他の乗り物もリニューアルしてるみたいだし。」

「あ、それ聞きました。ちょっと楽しそうですよね。」

「だろー?じゃあ今週末…っうわ!!!」


目の前にいたはずの藤堂先輩が勢いよく引っ張られた。
そして次に現れたのは沖田先輩。


「君、ああいうところ好きなの?」

「え?はい…。楽しいですよね。遊園地。」

「ふーん。じゃあ土曜日、8時に駅集合ね。」

「へ?」

「お…おい!総司!」

「なーに?平助。君、今週末補習じゃなかった?土方先生の。」

「あ。」

「僕が調査してきてあげるから、君は来週行ってきなよ。」



そんなことがあって今に至るんだけど。
まさか本当に沖田先輩と行くことになるとは思わなくて。
前日に明日ちゃんと来てよねっていうメールがきたときにはびっくりした。


絶叫系が大好きな私はいろいろな乗り物に乗れるのが嬉しくて思わずはしゃいでしまった。沖田先輩も楽しそうだったし、途中で休憩しつつまわってとても満足していたんだ。


なのに。


何故か最後につれてこられた場所はあのお化け屋敷。
怖さが倍増したと噂のおどろおどろしい場所。

どんな乗り物でも乗れる自信があるけど、お化けだけは嫌だった。
朝から近づく気配がなかったから行かないですむと思っていたのに!!!


入り口から一歩踏み入れただけなのにもう真っ暗だった。
暗すぎて何も見えなくて怖い。
沖田先輩に置いていかれない様になんとかついていくので精一杯。


「っきゃあ!!」

「人形だよ。」

「きゃあああああ!」

「あははは。よくできてるねー。」

「わあああ!」

「すごーい。コンニャク使うなんて、レトロだね。」


なんだこの会話。
温度差半端ない!同じ空間にいるとは思えない!!!

次々とでてくる何かにいちいち反応してしまう自分が憎いけど、でも怖いものは仕方ない。


「きゃああ!」


相変わらず真っ暗な空間で飛び出してきた何かにまた驚いてしまう。
座り込んでおそるおそるそれを見るとただ紙切れがぶら下がっているだけだった。

「はぁ…びっくりした。…あれ?沖田先輩?」

目の前にいたはずの沖田先輩がいなかった。
あれ?どうして?さっきまで確かに…もしかして、置いてかれた!?

「お…沖田先輩!沖田先輩!?!?」

二人でいてもあれだけ怖かったのに一人でなんて絶対に無理!
どっちに進んでいいのかもわからないぐらいパニックになってしまって私は座り込んだまま動けなくなってしまった。

「沖田先輩!沖田先輩!!!怖いです!沖田先輩!!!」

「なーに?」

「お…沖田せんぱ…。」

「ついてこないからどうしたのかと思って。」

「うぅ…なんで…いなくなっちゃうんですか…。」

「え!?な…泣いてるの!?」

ぼろぼろと泣いている私を見て沖田先輩が見たことない顔をする。
だって先輩が慌てるなんてあまりないから。

「ごめん…そんなに怖がるなんて思わなかった。…早くでようか?」

そう言うと先輩は私の手をしっかりと握ってくれた。
そのぬくもりに安心して、その後は何故か怖いと思わなかった。
なんでだろう。沖田先輩だから?

「君さ…。」

「はい?」

「なんていうか…いつも元気なのにこんなんで怖がるとか、子供っぽいよね。」

「う…。」

「でもそこがいいんだろうけど。」

「はい?」


―なんだか放っておけないよね。―



(先輩!あの…もうお化け屋敷出たんですけど…。)

(だから?)

(そのー手が繋がれたままで恥ずかしいというか…。)

(僕も恥ずかしいんだから我慢しなよ。)

(え?!)

(迷子になったら困るしね。)

(なりませんよ!)

(僕から離れるの禁止。)

(え!?え!??あの…それって…。)



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