思い出B彼と花火
近所の川原に行こうと言い出したのは一だった。
もう夜なのにいきなりどうしたんだろうと思いつつ、私は携帯を持って家を飛び出したのだ。
「あれ?一?」
「行くぞ。」
「家の前で待ってたの?」
「こんな夜遅くに一人で歩かせるわけにはいかない。」
そう言うと一は私の手をひいて歩き出した。
こんな夜遅くに呼び出したのは誰よと思いつつ、私は彼の横顔を見つめた。
普通だったらこんな遅くに家を出るなんてうちの親は許さない。
だけど一緒に行動するのが一だと何の文句も言わないのはもう昔からのことだ。
「ねえねえ、どうして川原?」
「…俺の手にあるものが見えないのか?」
「手?」
よく見ると一はコンビニの袋を提げていた。
そこから飛び出しているのは…
「花火!?」
「そうだ。やりたいと言っていただろう?」
言ってたよ。
言ってたけど…ほんと相変わらずよく覚えてる。
今年は受験だからと花火大会もお祭りも我慢していた私の愚痴を覚えてるなんて、一じゃなかったらありえないんだろうな。
小さい頃からしっかりしている一が今では私の彼氏だなんて自分でもまだ実感がわかない。
それでも繋がれた手がそれを真実だと教えてくれる。
私が顔がにやけてしまうのを必死に下を向いて隠していた。
川原につくと前もって準備していたのか、水の入ったバケツも置いてあった。
「好きなのを選べ。」
「うん!!」
二人きりの花火大会。
だけど、今までのどの花火より幸せだ。
次々と火をつけて花火を堪能する。
光に照らされた一がものすごく格好良くてまともに見られなかった。
ずるいなぁほんと。どきどきしてるのは私だけなのかな。
楽しい時間はあっという間で、残った花火は線香花火だけになった。
「どっちがより長く点いてるか勝負ね!」
「いいだろう。」
パチリパチリと火花が散る。
「綺麗…。」
「そうだな。」
線香花火って綺麗だけどどこか切ないよね。
何でだろう。儚いからかな?
「先に消えてしまったほうは何でも言うことを聞くというのはどうだ?」
「え?…いいよ!負けないし。」
突然一が勝負をしかけてきて驚いた。
だって一はそんなことを言い出す奴じゃないし。
ついのってしまったけど、一の願い事ってなんだろ?
「落ちるぞ。」
「え?ああ!」
まるで一の言葉が合図だったかのよう。
私の持っていた線香花火の火は静かに地面に落ちていった。
「うう…負けた。」
「俺の勝ちだな。」
「で、一の望みは何?」
「そうだな…。」
まだ火花を散らしている線香花火を見ながら一は考え込むように口を閉ざした。
なんだ、願い事決めてなかったの?
「来年、俺たちは大学生になるな。」
「え?うん。そうだね。一と同じ大学に行けるか不安で仕方ないけど…。」
「俺が必ず受からせてやる。そこは安心しろ。」
「頼もしい限りです。」
「来年も…。」
「ん?」
ポトリと線香花火の火が落ちた。
一瞬で闇に包まれ、気がついたら一の顔が目の前だった。
―来年もその先もまた二人で花火をしよう―(う…うん。)
(どうした?)
(外でキスするから…はっ恥ずかしいの!)
(もうそろそろ慣れたらどうだ。来年の今頃はそれだけではすまないぞ。)
(え?それってどういう…。)
(そういう意味だ。覚悟しておいてくれ。)
(っ〜〜〜〜〜!!!!!)
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