思い出A彼と夕立



「先生っ!土方先生!!!」

「あ?何だ、騒がしいな。」


私が叫ぶと土方先生はコーヒーの入ったマグカップを持ってきてくれたところだった。
先生の家でテスト勉強をしていたんだけどつい外が気になって勉強を放り出し、私は外を見ていたのだ。
黒い雲に時折遠くから聞こえる音。
これは絶対に…。

「これはくる!くるよ!あれが!」

「だから何がだ。」


騒いでいる私に近づくこともなく、コーヒーを教科書やノートが散乱しているテーブルに置くと先生はソファに座った。
もう少し興味持ってくれてもいいのに!!


「もーテンション低い。おじさ…。」

「何か言ったか?」

「いえ!何も言ってないです!」

背筋をぴんと伸ばし敬礼をする。
いかんいかん。子供っぽかったよね。
先生と生徒ってだけで先生とはなかなか恋人らしいことできないのに私がこんなんだからいつまでも子ども扱いなんだきっと。


「…で、何がくるんだ?」

「あ。夕立が!」

「夕立?」

「そうです!これは大雨と雷がくる予感ですよ!わくわくしますね!!!」


そう言いながら先生の横に座りテーブルに置いてあるコーヒーに手を伸ばす。
と、同時に隣からため息が聞こえてきた。

「お前な…。」

「はい?」

熱いコーヒーを息を吹きかけて冷ましながら先生のほうを見ると先生は眉間に皺を寄せて頭を抱えていた。

「いや、さすがに俺も雷で怖がるような奴だとは思っていないし、期待もしない。だがな…もう少し違う反応できねえか。」

「違う反応…。」

雷で怖がる子は確かに可愛いけど、しょうがないじゃん自然現象だし。
家にいればだいたいの確率で無事なはず。
それになんだか夕立って昔からわくわくした。


「ま、お前らしいといえばお前らしいか。」


そう言って先生はマグカップに手を伸ばしてコーヒーを啜る。
そしてテーブルの教科書を手に取り、どこまで進んだ?なんて話題をさらりと変えてしまった。


段々近づいてくる雷の音を聞きながら私は先生をじっと見つめた。
やっぱりつりあわないかな。
そもそもどうして子供っぽい私を先生は選んでくれたんだろう。
キスするだけで精一杯な子供の私を。


雷が鳴って怖がったりすれば、今の状況は少し違ったのかな。
落ち着いて勉強して、コーヒーだって私が淹れてあげるぐらい大人っぽい行動がとれたらもっと恋人らしくできるのかな。

なんだか悲しくなって、私はいきなり立ち上がると部屋を飛び出した。
先生の声が後ろから聞こえたけど止まらなかった。


雷もすごいけど雨もかなり降ってきていた。
傘持ってくれば良かったなんて頭の隅でぼんやりと考える。
とりあえず家に帰ろうか…と駅の方へ歩こうとしたとき。


「待て!」

「せんせ…。」


後ろから腕を掴まれて抱き寄せられる。
全速力で来てくれたのか、息が切れているのが背中越しに伝わった。

「いきなりどうした?!何も言わずに出て行ったら吃驚するだろうが!」

「…だって…子供ですもん。」

「は?」

「私、子供だから。」

俯きながらそう言うと先生はぎゅっと抱きしめる力を強くした。
雨に降られて体温が下がっているはずなのに背中だけがものすごく熱い。


「先生?」

「不安にさせて悪かったな。」

「え?」

「別に子ども扱いしてるつもりはねえんだが…可愛いって思ってるし。」

「かっかっかかか!!!」(先生が可愛いとか言った!?)

「こっちも色々と我慢してんだ。察しろ。」

「え!?えーっとあのー。」(我慢って…?)

「とりあえずこのままじゃ風邪ひいちまう。帰るぞ。風呂入れ。」

「ふっ!!!」(F U R O !?!?お風呂!?)

先生はそう言うと私の手をひいてマンションへと歩き始める。
私は何も言えずにおろおろしながらついていくと先生が意地悪そうに笑って言った。

「おい、どうした。顔が赤いぞ。何想像してんだ。」

「想像!?いえ、何も、まさか!」(だってお風呂とか…我慢とか…!!!)



―想像した通りのことしてやろうか?―



(ぎゃーーーー!!!)

(っくく…騒がしい奴だな。)

(だって先生が!!)

(とりあえず風呂入ったらお前の好きなアイス食うか。買ってあるからよ。)

(へ?アイス?)

(何だよ。一体何を想像してたんだ?)

(な…何でもないよ!先生のアホ!!!)






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