思い出@彼とお祭り
賑やかなBGMに楽しそうな声。
その熱気に包まれて私と平助は歩いていた。
「お!たこ焼きにお好み焼き!焼きそばもあるぜ!うわー全部食いてー!!」
「平助…全部炭水化物じゃん。どれかにしようよ。私りんご飴ほしい。あ、わたあめもチョコバナナもいいなー。」
「お前も甘いものばっかじゃん。」
「何か言った?」
「いや…何も言ってません。」
近所の神社のお祭りがあることは知っていた。
だって昔からあるし、何度も行っていたから。
だけど今年はちょっと違う。
今年は…。
「ほら、口あけろって。」
「え?…んぐっ!?」
「たこ焼きうまいだろ?」
振り向き様に口にたこ焼きを押し付けられる。
いつの間に買ってきたのか、平助が嬉しそうな顔で私を見ていた。
おいしいとかその前に…
「あっつ!!!!」
「ええ!?ああ!わりぃ!」
「あつっ!あっつ!へいす…の…飲み物!」
口の中でこれでもかと熱を放ちまくるたこ焼きを出すわけにもいかず、私は平助が持っていたお茶を奪うように飲み干した。
「うぅ…熱かった…口痛い。」
「ごめんな!?ごめん!」
悪気はないってわかってる。しかもそんな大きなお目目うるうるさせられて怒る気にもなれない。
「大丈夫…。」
「あ!俺カキ氷買ってくる!冷たいほうがいいだろ?ちょっとそこで待ってて。」
言うや否や平助は私にたこ焼きを預けると猛スピードでカキ氷を買いに行った。
ぽつんと残された私はとりあえず平助が指差した場所、少し人ごみから外れた石段のところに座った。
「平助ったら。」
たこ焼きを近くに置いてぼーっと彼が走っていった後を見た。
今は人が多くて見慣れた背中は見えないけどきっと焦ってカキ氷を頼んでいるんだろうなと想像はつく。
昔からそうなんだ。
平助が私のために何かしようと思うとこうして少しミスをする。
だけど私はそれでも嬉しくなっちゃうから気にしないのに、平助はいつもしょんぼりしながらさらに何かしてくれようとするんだ。
ずっと頼りない弟みたいに思ってたのにな。
今は違う。
今は…
「買ってきたぞ!」
息を切らせながら嬉しそうに私の大好きないちご味のカキ氷を持っている彼は…
大切な恋人になった。
「お前、いちご好きだよな?」
「うん。ありがと、平助。」
「いいよ、もとはといえば俺が…。」
私の隣に座り込んだ平助が眉を八の字にして顔を覗き込んできた。
「!?」
すっと唇をなぞられて思わず体がびくりと動く。
瞬きするのを忘れて目を見開いた。
「あー…ちょっと腫れてんな。冷やさないと。」
そして平助はカキ氷を掬うと私の口元につける。
「早く腫れがひくといいんだけど…。」
唇触れられて、しかもカキ氷を食べさせてもらって。
もう私の心臓がドキドキうるさいんですけど。
どうしてくれるのよ、平助。
責任とりなさいよ。
ぱくりとカキ氷を食べると私は平助の手からカキ氷を奪い取った。
「どうした?」
驚く平助の口にカキ氷を突っ込む。
「っ!!…つめて!お前いきなり食ったら頭いた…っ!!??」
騒ぐ平助に思い切りキスをした。
カキ氷を食べたばかりで冷たいキスだったけど。
顔はものすごく熱くて、正直溶けるんじゃないかって思うほど。
「な…な…。」
金魚みたいに口をぱくぱくさせている平助から目を逸らし、私はもう一口カキ氷を食べた。
「今ので十分冷えたから…治るよ。大丈夫。」
「お前っ…。」
恥ずかしくて平助の方を見れなくて。
黙々とカキ氷を食べていた私に。
平助がいきなり手首を掴むとそのままぐいっと自分の方へ引き寄せた。
いつも頼りない彼に似合わない台詞を言いながら。
―もっと…冷やさなきゃだめだろ?―(平助!?)
(何だよ。)
(あの…えっと…。)
(わあー平助君達、大胆だねぇ一君。こんなところでキスしようとしてるよ。)
(ああ。風紀委員として注意しないわけには…。)
(わ!?なんで総司と一君がいるんだよ!!)
(助かったような…残念なような…。)
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