―風間さんの彼女―


もうね。正直みんな贅沢すぎ!

みんなの前で好きって言われる?
むしろ好きっていってくれない?
迷惑かけたくなくて甘えられない?
大人な彼と釣り合わない?
つい厳しくしてしまう?
奥手すぎる?
イタズラ小僧?…いや、小僧じゃないか。


そんなのね。
全然可愛いから!!!


思わずダンダンと力強く廊下を歩いてしまっていた。
沖田君を探している親友と別れて階段を下りていき、目指す場所は生徒会室。

別に行きたくなんてないよ。
だけど行かなきゃいけないじゃん。


いろんな子の悩みを聞いた。
で、結論としてはどれもそれぐらい可愛いってこと。
相思相愛、ただの惚気よ!

しかもみんな私の相談の時は全然フォローしてくれないじゃん。
苦笑いで頑張れしか言ってくれないじゃん!

くそー。なんで私は…


「遅かったな。何をしていた。昼休みは俺と食事を共にするのが妻の務めだろう?」


こいつと付き合っているんだ!!!


「誰が妻ですか。私はまだ独身です。」

「ならば婚約者か。どっちにしろ俺のものに変わりはない。ここへ座れ。」

「断る。」

「昼食が冷めるぞ。貴様の好きなホットサンドだ。」

「わーおいしそ…って違う!人の話を…。」

「食べぬのか?天霧が用意したものだが。」


ちっ…。
天霧さんが用意したと言えば私が無下にできないことを知ってのことか。


諦めて千景の隣に座るとぐいっと腰をひきよせられた。


「ちょっと!何!?」

「何…とは?」

「お昼ご飯食べるんでしょう!?」


いくら誰もいない生徒会室とはいえこんなに近距離にいたら恥ずかしい。
千景とは幼なじみで小さい頃から一緒だけど…。黙っていれば綺麗な顔が目の前というのは心臓がもたない。


「俺が食べさせてやろう。ありがたく思え。」

「なんでそんな上から目線なんだ!?」


幼なじみから恋人になる瞬間はあまりにも突然のことだった。
千景が十八歳になった時。

『もう結婚できる年だな。俺の妻になれ。』

『は?』

あまりにも驚きすぎて何も言い返せなかった私の態度を肯定ととったのか。
それから毎日のように風間家の嫁になる為のレクチャーを受け(一方的に)、愛を囁かれ(というより千景の自慢)、こうして二人きりで過ごす時間も増えた(というより軟禁)。


千景は見た目はかっこいいし、俺様だけどやることはやるし嫌いじゃないけど。


…人として大切な≪遠慮≫とか≪謙遜≫とか重要な部分は欠けてる。
それに私の意見も聞かずに突っ走るし。


もう少し私の話を聞いてほしい。
いつも慌ただしく振り回されるこっちの身にもなってよね。

私一度も好きとか言ったことないからな!!


「どうした?」

「え?」

「怒っているようだが。」


何よ。そういうことはすぐわかるのね。
長い付き合いだからなの?


「俺に隠し事などできると思うな。貴様の表情を見れば機嫌などすぐにわかる。ずっと傍にいたからな。」


千景がふわりと私の髪を撫で、そのまま手を頬へ移動させた。


「ちょっと!何を…。」

「そうやって強がるところは昔から変わらんな。だが…。」


そのまま両手で頬を包まれて。
ゆっくりと優しいキスが落ちてくる。


「っ!!!」


どんっと思い切り千景を押して自分の口元を押さえた。
ファ…ファーストキスだったんですけど!?


「なっなななな!!!」


なんてことを!
(一方的に)恋人になったかもしれないけど私認めてないんだからね!

パニックになっている私とは対照的に千景は余裕そうな笑みを浮かべていた。
くそ…そんな顔も綺麗だと文句が言えない。


…本当はわかってる。
こんなに振り回されてても、俺様でも遠慮とか謙遜とか知らなくても、っていうかもう普通の人じゃないとしても。


私は千景のことが。



「何を慌てているのだ。」

「だっ…だって!私はまだ認めてない…。」

「認めない?何をだ。」

「こっ恋人になったってことだよ!」

「ふっ…認めるも何も、もうわかっているではないか。」

「は?」


千景は再び私の頬に手を添えて、俺様な微笑みでこう言った。




――その目は完全に俺を好いている目だ――


(…自意識過剰があああ!!!)

(そんなに照れるな。さて、式の日取りを決めるか。)

(待て待て待て待て!!!!)

(大丈夫だ。準備はしてある。)

(結婚情報誌が積みあがっている…だと?)



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