―沖田君の彼女―


ああ、もう。
本当に山崎君の爪の垢を煎じて飲んでくれないかしら、総司。


そんなことを考えながら廊下を歩き続ける。
さっきは総司のしかけていたイタズラにひっかかって見事にお茶を吹きだすし、土方先生には総司の代わりに怒られるしいいことない。

いつもこんな調子で私って本当に彼女なのかなって思っちゃう。
なんか…総司のストレス発散のおもちゃなんじゃないかって…いやいやそんなことはない。

ない…と思うけど。


総司のことだから屋上とかに行ってるのかな。
そう思って自然と足は屋上へと向かっていた。
階段を上へ上へとのぼっていくほど人が少なくなっていく。


「あ。」

「あれ?どうしたの?沖田君探してる?」

「うん。」


私とは逆に下へ降りようとしていた親友に出くわす。


「沖田君、屋上に向かっていた気がする。」

「ほんと!?」

「いつも沖田君探してる気がするよね、あんたは。」

「だって…。総司いっつも振り回すから。」

「でもそれも好きなんでしょー?ってかね、まだまだ全然マシだから!!!」


私の肩をがっつり掴んでぶんぶんと揺する親友。
ちょ…ここ階段です!何でいきなりご乱心!?


「沖田君はなんだかんだあんたのこと大好きじゃん!好きな子ほどかまいたくなるってやつでしょ!?私なんか…私なんか…。」

「あ。」


親友の彼氏を思い出した。
…いや、すごくかっこよくて、なんでもできる人だと思うよ?


「私なんか…まず常識が通じないし、自己中だし、人の意見は聞かないし…。」

「あはは…。」


ごめんなさい。否定できません。
でもそんな人でもこの学校の生徒会長だからよくわかんないよね。


「あ、私行くね。」

「う…後でちゃんと愚痴聞いて!!」

「はーい。」


涙目で私を見る親友に思わず笑いそうになったけど、そんなことしたらきっと放してくれない。私は返事をするとすぐに屋上へと向かって行った。



屋上へ出られるドアの前で総司が座り込んでいた。良く見るとドアが少しだけ開いていて外を覗いているようだった。


どうして外に出ないんだろう?


私は総司の後ろに立ち、声をかける。


「総司!」

「あ、どうしたの?」

「どうしたの?じゃない!総司が!!!」

「しっ!」

「きゃっ!」


暢気に振り向いた総司に腹が立ってつい大きい声を出すと腕を引っ張られて座っている総司の上に倒れ込んだ。


胡坐を掻く総司の上に座るように抱きしめられて恥ずかしい。


「ちょっ…。」

「静かに。」


口を手で押さえられて顔に熱が集まる。
目をぱちぱちさせている私なんて気にならないのか、総司が外を覗いていた。


「ほら、今いい感じだからさ。静かにしてあげて。」

「いい感じ?」

「土方先生と彼女。」

「ええ!?」


思わず一緒に外を見る。
ドアの隙間から土方先生と彼女が見えた。
どうやら泣いているらしい彼女を土方先生が抱きしめて頭を撫でているみたい…。


「総司…覗き見は駄目だよ。ってか土方先生、総司を探してたんだよ!?もう…何したの?」

「えー?どれのことかわからないよ。」


どれのことって…どんだけ土方先生に嫌がらせしてるのよ。

「もう…いつもイタズラばかりして。私も怒られちゃうんだから。」

「ごめんね?」


そう言って総司が私をぎゅっと抱きしめた。
私も単純なもんだ。
それだけで怒りも治まっちゃうし、愛おしいとさえ思うんだから。

「ねえ。」

「ん?」


ちゅっとリップ音がして目の前に総司がいた。
意地悪そうに微笑んでいて一向に離れる気配がない。


「ち…近い。」

「何で?近いと駄目なの?離れたくないんだけどな。」

「でも…ここは学校…。」

「先生がしてんのに、生徒がしちゃだめなことなんてないよ。」


そう言うと総司はもう一度私にキスをした。
恥ずかしいけど嬉しくて思わず目を閉じる。
何度も何度も確かめるようにキスをされて私は幸せな気持ちになっていった。


「総司…。」

「もう、そんな可愛い顔しないでよ。」


――止められなくなるじゃない?――


(きゃあああああ!!ストップストップ!)

(どうした!?…って総司!!!)

(あ、土方先生。続けてていいですよ。僕達も負けないんで。)

(おま…見てたのか!?)

(あーあ。せっかく良い雰囲気だったのに。土方先生は放っておいてあっち行こうか。)

(もう…総司の馬鹿。)





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