―山崎君の彼女―
先生との恋愛って絶対大変だよね。
そんなことを考えながら私は保健室へと向かった。
まあ私は学生同士だし、たいした問題もないと思われるけど…。
「失礼しまーすっ。」
保健室に入るとそこには私の彼が座っていた。
「どうした?どこか悪いのか?」
何か書き物をしていたのか、ペンを置いて私の方を見る。
私は少し鋭いその目が好きだった。
「ううん。丞に会いにきただけー。」
「っ…。具合が悪くないのに来るな。」
「もう照れるな照れるな。」
「照れてない!」
「山南先生は?」
「会議の準備とかで先ほど出られた。」
「ふーん。」
ベッドの方を見ても誰も寝ていない。
と、いうことはつまり。
ここには私と丞だけかあ。
私は丞の横に椅子を置いて座りぐぐっと近づいてみた。
「なっ…何だ?」
「別に?見てるだけ。」
「近い…。」
「問題でも?」
「あ…あのなあ。」
ふふ。
丞はしっかりしてるし、厳しそうに思われがちですが、本当は照れ屋です。まあそこが可愛いんだけど。
さて、今日はどうからかおうかと思った時だった。
―――ガララッ
保健室のドアが開いてそこには一人の女の子がいた。
私は同じクラスになったことはないけど見たことがある…。確かあの子は。
「どうかしましたか?」
丞が声をかけると彼女はきょろきょろと保健室の中を覗き込んだ。
「総司…いません?」
「沖田君ですか?」
そうそう。沖田君の彼女だ。
確か丞は同じクラスになったことがあったんじゃないかな?
「もう…どこにいったんだろ。土方先生に呼ばれてるのにー!!」
「大変ですね。」
つい言葉が零れてしまう。
すると彼女は私の前まで歩いてきて腕を掴んだ。
「そうなの!大変なの!いっつも総司のイタズラとか受けるし、土方先生に総司の代わりに怒られるし!!!」
ああ、あの沖田君の彼女は大変そうだな。
「しかも顔はいいからもてるし!!!もーーー!総司のばかああ!」
やっぱり。
すごいもてるもんね。沖田君。
「はあ…山崎君はいいね。しっかりしてて真面目で。山崎君の爪の垢、もらっていい?総司に飲ませるからさ。」
「お断りします。」
ちょっと丁重に断らないであげて。冗談だろうから。…冗談ですよね?
「私探してきます。…あ、ごめんね。お邪魔しました。」
ぺこっと頭を下げて彼女は保健室から出ていった。
「嵐のようだったね…。」
「ああ。」
真面目でシャイっていうのも物足りないかなとか思ったけど…あれはあれで大変そうだ。
やっぱり丞が一番だね。
「うん。やっぱり丞がいいな。」
「何だ、いきなり。」
私が笑いながら言うと丞はまた照れたのか立ち上がってベッドの方へ向かった。
布団やシーツを整えている。保健委員も大変だ。
私は静かに立ち上がって丞の後ろへ立った。
だってこれはさ。チャンスでは?
イチャイチャするチャンスでは??
とりあえず後ろから思い切り抱きついた。
「うわっ!?」
「えへ。」
「えへじゃない!は…離してくれ。」
「断る!ねえねえ、保健室だよ?二人きりだよ?何かないの?何もしないの???」
「何もするわけないだろ!?期待の眼差しでこっちを見るな!!!」
「うえー。」
そろそろ離れないと怒られるな。
私はぱっと両腕を離すと丞から少しだけ離れた。
いいじゃんねえ。
チューぐらいしてもさ。
ベッドから離れて椅子の方へ戻ろうとした時だった。
いきなり腕を掴まれたかと思うと引っ張られて後ろから抱きしめられる。
「え!?丞?!」
そのまま丞は何も言わずにぎゅっと私を抱きしめた。
突然のことに驚いたけど嬉しくて私は大人しく腕の中にいる。
「えへへ。嬉しいなあ。」
後ろから抱きしめられている状態で顔だけ振り向いて笑う。
すると丞の顔が一瞬困ったように歪んだ。
「…そんな顔しないでくれ。」
「なんで?」
――期待に応えたくなる――ふわりと体に浮遊感。
背中に柔らかい感触。
視界には丞と保健室の天井。
(え!?丞…本気!?)
(本気だと言ったらどうするつもりだ。)
(受けてたつ!!)
(っ…!冗談だ馬鹿!!!)
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