―永倉さんの彼女―
なるほど。
色気のある大人の男性というのは素敵だと思っていましたが、それはそれで大変なのですね。
私は友達を見送ると携帯を取り出して小さくため息をつく。
――新着メールはありません
いつも昼休みは一回か二回ほどメールをするというのに。これはおそらく競馬の放送に夢中になっている証ですね。
――中庭にいます。
一応送ってはみたけれどはたして彼は見てくれるのでしょうか?
気付かなかったら…しばらく口をききません。
そんなことを考えながら中庭へ向かっていると去年同じクラスだった友達と廊下で会う。
「やっほー!…どうしたの?元気ないけど。」
「え?そうですか?」
「なんとなく…あ、ぱっつぁん、またメールに気付かないとか?」
久しぶりに会ったというのにどうしてこんなにも鋭いのか。あまりにも的確だったのでつい頷いてしまいました。
彼女とは恋愛話をよくしていたのもあって私が永倉先生とお付き合いをしていることも知っている。
「相変わらずだね、ぱっつぁんは。こんな可愛い子放っておくなんてさ。」
「いえ。お仕事かもしれません。」
とは言いつつ、競馬ですって頭を抱えている姿しか想像がつかないのですが。
「でもおもしろいし、細かいこと気にしなそうだし、意外としっかりしてるし…いいよねぱっつぁん。」
「そうでしょうか…。あなたの彼のほうがしっかりしていて真面目で良いと思いますよ。」
「えー?うち?でもさー真面目で奥手だよ。シャイすぎてさ〜。チューもなかなかしてくれないよ。」
あはははと豪快に笑う彼女の後ろに顔を赤くして焦っている彼の姿が想像できた。
「ふふ。素敵なことですよ。」
「そうかな?うちらはもう少し大人になりたいねぇ。」
「私の方は大人とは言い難いのですが…。」
本当はわかっています。
永倉先生はしっかりしていてちゃんといろいろ考えていて。
私のことを大切に思っていること。
だけどうまく甘えられない私はつい厳しく接してしまったりするのです。
永倉先生の底抜けな明るさに救われているくせに、眩しすぎて目を閉じてしまいたくなる。
こんなことではうっとおしいと、息苦しいと言われてしまいそう。
「大人だよー。ぱっつぁんなんだかんだいつもあんたのこと考えてるんだから。」
「そうでしょうか。」
「単純筋肉ギャンブラーは仮の姿!真の姿はしっかり大人な常識人!ってね。」
「だといいのですが…。」
「さて、私は保健室にいってくるわ。またねーん。」
彼女と分かれてそのまま中庭へ向かう。
案の定誰もいない中庭のベンチに座って空を仰いだ。
「…どうして優しくできないのでしょう。」
ギャンブルを注意すると先生はいつも笑ってごめんなーと手を合わせる。
先生は適度に遊んでいるだけとわかっているのに。
「こんなんじゃ私…。」
嫌われてしまうでしょうか?
小さい呟きが風にのって消えていく。
「嫌われたくないです。永倉先生。」
「嫌うわけないだろう!!!」
大きな声に驚いて振り向くと息を切らした永倉先生が立っていた。手には携帯を握りしめている。
「メール…見てくれたんですか?」
「ごめん!土方さんに呼ばれててすぐに返事できなかったんだ。」
「そう…だったんですか。」
本当にお仕事だったなんて。
ごめんなさい。永倉先生。
「嫌われたくないのは俺の方だ!」
私の前にしゃがみこんで永倉先生は続ける。
「メールもろくに返さねえ、なかなか会えねえ、俺は左之や土方さんみたいにうまいこと言えねえし…本当は不満がいっぱいなんじゃねえかって…。」
「先生…。」
「俺の方が大人のくせにいつも注意されてばかりだしな。呆れてるよな。」
「先生。」
「俺じゃ君にはふさわしくないんじゃないかって今も来る途中に考えちまって…でも絶対に別れたくなんかないし俺は一体どうしたら…。」
「先生!!!」
「うおっ!?なんだ!?」
しゃがみこんでる先生の両肩に手を置いて言葉を遮った。
「私でいいんですか?」
「へ?」
「私、口うるさいし、厳しくしちゃうし、優しくないです。きっとなかなか変わりません。でも…先生が好きです。」
「…っ。」
みるみる先生の顔が赤くなっていき目もきょろきょろと泳ぎだした。
「そ…そんなの反則だろ!!俺だって君じゃなきゃダメなのに!!!」
――これからも隣で注意してくれよ――困ったように見上げられて顔に熱が集まった。
(これからも?)
(ああ!君が嫁さんならしっかり俺のこと管理してくれそうだしな!)
(お嫁さん…ですか?)
(あ…。)
(自分で言って照れないでくださいよ。)
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