―斎藤君の彼女―

隣のクラスに戻っていった親友の後姿をみて思わず頬がゆるむ。
バカップルと噂の二人は見ていて微笑ましい。


そのまま私の視線は隣の席にいる自分の彼氏へと向けられた。
昼休みだというのに静かに本を読んでいる彼は絵にかいたような優等生だった。
頭脳明晰、眉目秀麗。
どうして私が付き合えたのかいまだによくわからないけれど一は私を選んでくれたのだ。


付き合ってからもう半年がたつけれどこの半年の間に彼から好きという言葉をどれぐらい貰ったのだろう。
もしかして…数えられちゃうんじゃないかって思う。


一に大切にされているとは思っているけれどやっぱり藤堂君みたいに真っすぐ言ってほしい時もあるよね。


そんなことを思って一人静かにため息をついた。
…つもりだったけど、隣の席の一には聞こえちゃうよね、そりゃ。


「どうした?何かあったのか?」

「え?ううん。藤堂君達は相変わらずだなと思って。」

「平助も悪気はないのだがな…。」


パタンと本を閉じ机の中にしまうと一は私の方に体を向けた。

「…うらやましいななんて。」

「は?」


あ。
しまった。心の声が漏れだした。

一は目をまん丸にして私を見ていて、口を少し開いたまま固まっている。
普通の人ならまぬけな顔になるというのに整った顔立ちというのはそんな表情すらかっこいいのか。


「あ、ううん。何でもないよ!」

「…。」

「本当だよ!!はっきり愛を伝えられるのが羨ましいとか…。」


墓穴を掘っている気がして口を閉ざした。
一は相変わらず黙っていて居たたまれない気持ちになる。


そんな空気を察してくれたのか、偶然なのか私達に声をかけた人物がいた。


「ちょっといい??一君彼女かりるよー。」

「あ、ああ。」

「え!?ええ!?」


ぐいぐいと私の腕をひいて窓際まで連れていくのはクラスで一番仲の良い友達だった。
よく恋愛相談もしているんだけど、ここだけの話、彼女の恋人はなんと…あの土方先生だ。


「何かあったの?空気が固まってたからさ。ついつい引っ張っちゃったんだけど。」

「あ…助かりました。」


同い年だというのに大人っぽく見えるのはやっぱり年上の人と付き合っているからなのか。
思わず私は事情を説明してしまう。


「なるほど。一君はシャイだからね。そんな簡単に好きとか言わないんじゃない?」

「そうだけど…。私達、その…あの…きっ…きっ…。」

「キス?」

「わあああ!そそそそそれ!それも数えるほどしか…。」

「あははは!いいじゃん!ピュアだねぇ!」

「うう…。」


私の悩みをたいしたことないと言わんばかりに笑う彼女が羨ましい。
だってきっと…いろいろ進んでいるんだろうななんて思っちゃったり。


「そう簡単に好きだって言う奴信用できないよ?あ、藤堂君のとこは別だけどさ。あれは特殊。」


あれ呼ばわりする彼女に思わず笑ってしまった。ごめんね、親友。


「キスだってそうなんじゃないかなあ?ぐいぐいこられたらひいちゃうよ?きっと。」

「うん。」


まあ実際はそうなんだ。きっといきなり来られたらびっくりしちゃうし。


「それにね、同じ歩幅で歩けて、一緒に成長できるって羨ましいな…。私なんてずっと子供扱いだから…。」


そう言う彼女は少しだけ寂しそうだった。
そっか。そうだよね。
土方先生はしっかりしてるから彼女を大切にはしてくれるだろうけど、先生と生徒って立場を忘れなさそうだし。堂々とデートもできないはずだ。
私が思っているよりも大変なのかも。


「そっか。そうだよね…。うん!ありがとう!元気出た!」

「よしよし!じゃあ一君のとこに行っておいで?きっと心配してるから。」


ありがとうと告げて私は自分の席へと戻って行った。
一は私を待っていてくれたのか、席につくとこほんと咳払いが聞こえた。


「…その。」

「さっきはごめんね?気にしないで。私一と一緒にいられたらそれだけで…。」

「すまない。俺は口数が多い方ではない故、あんたを不安にさせたのだな。」

「そんなこと!」

「平助のように伝えられたらいいのだが。その…この気持ちをどう伝えていいのかわからないのだ。」

「え?」

「俺のあんたへの思いは…。」




――好きという言葉では伝えきれないのだ――


頬を赤くして伝えてくれたその言葉に胸がぎゅっとなった。



(うう…嬉しいよう…。)

(何故泣くのだ!?)





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