―藤堂君の彼女―
「好きだ…。」
「え?」
「だから、俺。お前のこと。」
「ちょっ平助!ストップ!」
「お前のこと、大好きだー!!!」
一瞬で周りの音が消えていく。
残ったのは目の前で嬉しそうに笑う彼と。
顔に熱を集めている私。
平助さん。
ここは教室でございます。
「おいおいまた平助の告白が始まったぞ。」
「相変わらずだよなー。」
「もう耳タコだから、藤堂!」
「きゃー!いいなあ!!!」
そしてあっという間にクラス中から声が飛んでくることになる。
正反対に何の言葉を発せない私に平助はニコニコしながら言葉を続ける。
「別にいいだろー!本当に好きなんだからさ。」
もう当たり前のようにみんなに返しているもんだから、ひどい冷やかしをしてくるような人はいなくなった。
まあ冷やかしたところでこの平助が態度を変えることはないんだから。
だけど私は別。
恥ずかしいの。ものっすごく恥ずかしいの!
平助のことは大好きで、かっこよくて優しくて素敵な彼氏だと思ってる。
でもでも恥ずかしいものは恥ずかしい!
こんな風に好きと告げられることなんて日常茶飯事だからすっかり公認カップルになってるけどさ。
「あれ?何か怒ってる?」
俯いたままの私を平助が覗き込むように見つめてきた。
お前が好きだっていうからだろーとクラスメイトが私の気持ちを代弁してくれている。
「…か。」
「え?」
「平助のばかああ!」
「ええええ!?!?!?」
そう言って私は教室を飛び出した。
慌てるような平助の声が聞こえてきたけど振り向きもせず走った。
行き先はお隣。私の親友がいる教室。
「うう…もう恥ずかしくていられない。」
「相変わらずだね、藤堂君。」
親友はいつもこうして私の話を笑って聞いていた。だけど今日はいつもと違う。
少しだけ寂しげに見えるのは何でだろう?
「でもうらやましいよ。あんなに真っすぐに伝えてくれるなんてさ。」
「え?」
「うちは真面目で奥手だからなかなか好きって言ってくれないよ?」
そう言った彼女の彼、斎藤君を思い出す。
確かに…クールな斎藤君が平助みたいに好き好き言っているところは想像がつかない。
そうか、それはそれで寂しいものかも。
もしも平助が好きって言ってくれなくなったら?
…やだ。
やっぱりやだ!
「…私平助に謝ってくる。ばかって叫んで出てきちゃったし。」
「あははは。まあ藤堂君気にしなそうだけど。いってらっしゃい。」
そして私は教室に戻ってきた。
平助を探すと窓から外をぼんやり眺めている。
いつもなら他のクラスメイトとぎゃーぎゃー騒いでるのに。
「平助。」
「あ!…あの、ごめん。俺、ついつい言いたくなって言っちゃってたけどお前が嫌がるなら控えるようにするから…。」
「やだ!」
「え?」
「やっぱり言ってほしい。そりゃみんなの前だと恥ずかしいけど、でも好きって言われるの嬉しいから…。」
「…っ。」
私ってば自己中すぎる。
だけど平助の好きが聞けなくなるぐらいならからかわれるほうがマシだ。
「わかった!…でもこれからは。」
――お前にだけ聞こえるように言うよ――平助は耳元でそう囁いて私をぎゅっと抱きしめた。
(おい!またあいつらいちゃついてんぞ!)
(あ、やべ。)
(平助のばかあああああ!)
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