―平助君を祝え!―




面白い番組を流すテレビもない。
遠くの友達と話せる携帯もない。
暇な時間を潰せるゲームもない。
安く買えるお菓子もご飯もない。


ないないづくしだけど。


それでも貴方がいればいい。
そう思えた。
だから…。



「んーーーーー。」



ごろんと畳に転がり、部屋から庭を見ていた。
遠くから稽古をしているであろう隊士達の声とチュンチュンという鳥達の鳴き声が聞こえていた。


「どうしたの?」


傍らで針仕事をしていた千鶴ちゃんが私のうめき声に反応する。
もう一度ごろんと転がって千鶴ちゃんの方を見た。


私がいきなりこの時代にトリップしてしまって。
理由も仕組みもわからないし、どうにか自分のことを説明しようと頑張っても。
土方さんも沖田さんも敵意むき出しだったし。
原田さんや永倉さんも静かに聞いていたけど内心信じてくれてなかったと思う。


なんとかここに置いてもらえるようになって。
時間がたつにつれみんなとも仲良くなれて。
今では笑いあったりふざけあったりできるけれど。


最初はとても怖かった。
右も左もわからない。
どうすれば自分のいた時代に帰れるかもわからない。

そんな時にでも。
最初から優しくしてくれたのは目の前にいる千鶴ちゃんに近藤さん、そして。



いつも笑顔の彼を思い出す。




「何かできないかなと思って。」

「???」

「私達の時代はね。生まれた日をお祝いするの。誕生日パーティ。」

「ぱーてぃ??」

「おいしいものを食べたり、何か贈り物をするの。」

「素敵だね。」


手を止めて千鶴ちゃんは話を聞いてくれた。
未来の話はとても興味深いらしく、いろんな話を彼女とはしている。


「でね、その…。」

「あ、平助君?」

「うん…。」


彼の誕生日をお祝いしたいと思うのだ。
平助君も最初から私には優しくしてくれて、彼の笑顔に救われたのは一度や二度じゃないから。

「でも、贈り物するにもお金もないし。ご馳走といっても…。」


ここは現代じゃない。できる料理に限りがある。それに便利な道具に慣れてしまっている私はこの時代での料理が苦手だ。


「大丈夫!大事なのはきっと気持ちだよ!」

「千鶴ちゃん…。」


そうだよね。
どの時代だって大切なのは気持ちだ。

「日ごろの感謝が伝わればいいかな。」

「うん!私も応援するよ。手伝えることがあったら教えてね??」

「ありがとう!」


ふわりと微笑む千鶴ちゃんにつられて私も笑った。
そうと決まったら何をしよう?
彼が喜んでくれるものを探さないとね。



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