これは一体。

原田さんに連れられた私は女物の着物を渡された。

「これ、どうしたんですか?」

「まぁ、知り合いにもらったんだ。お前に渡そうと思っていたんだけどちょうど良かったな。よし、着替えて広間に来い。俺は準備をしておく。」

「左之さん!準備って?」

「祝うとなりゃ酒だろ、酒!」


楽しそうにそう言うと左之さんは部屋を出て行った。
廊下に新八さんや平助君もいたのか、三人の賑やかな声が響いている。


「お酒飲みたいだけじゃないですか?」


と思ってしまったけれど。
きっと左之さんなりに沖田さんを祝ってくれようとしているんだ。
多分、新八さんや平助君も。
話せば近藤さんも土方さんもみんな祝ってくれるはず。


私は久しぶりに女の子の恰好になるとゆっくりと広間へ向かった。


夕餉はとっくに終えていたけれど。
きっと左之さんが呼んでくれたのだろう、近藤さんも土方さんも、組長クラスは全員勢ぞろいしていた。
ただ一人、沖田さんを除いて。


「おぉ、女の子の恰好をすると一段と可愛らしいなぁ。」


ニコニコと近藤さんが微笑んだ。
いつも怒り顔の土方さんも今は笑っている。


「確かにな。悪くねぇ。」

「いっつも男の恰好でもったいないよなー。」

「やっぱり女の子は女の子の恰好が一番だな。」

平助君と新八さんがうんうんと頷きながら褒めてくれた。

「酒は用意した。総司を呼んできてくれないか?」

斎藤さんがちらりと私を見て言う。

「え?私がですか?」

「お前が祝いたいって言ったんだ。早く呼んできてやれよ。」


左之さんが相変わらずにやりとした笑顔だ。
これじゃ…多分。


その後、他のみんなを見るとだいたいみんな似たような表情だ。
斎藤さんはにやついたりなんかしないけれど。





ばれてる。


「いいいいいってきます。」


私が広間を飛び出したのは。
恥ずかしさのせいだ。
決して沖田さんのところに早くいきたいわけじゃないから!!!



「沖田さん・・まだ起きてますか?」

「え?起きてるけど・・どうしたの?」



しばらくしてから襖が静かに開いた。
私の恰好に驚いたのか言葉につまっているようで。


出会ったときは。
未来からきたなんて得体の知れない私に。

よくわかんないし、斬っちゃいましょうよなんて笑いながら言ってきた。

正直本当に怖かった。


だって平気で刀向けてくるし。


人も斬れる。


だけど実際は。


優しいところもあって。


近藤さんの為に一生懸命で。


私が危ない目に合うとすぐに庇ってくれた。







そんな沖田さんが。






私は。






「ねぇ。こんな時間に女の子の姿で現れるなんて、どういうつもり?」

「あ。すみません。ぼーっとしてしまって。」



黙って立ちつくしている私に沖田さんが困ったように笑いかける。


「あのですね、今から広間に来てほしいんです。皆さんお待ちです。」

「今から?」

「はい。今から沖田さんの誕生日をお祝いするんです!」

「僕の誕生日?」

「未来ではお誕生日はみんなでお祝いするんです。正確な日付がわからないのが残念ですけど。沖田さんを驚かせたくていきなりこんなことに。すみません、ご迷惑でしたか?」



おそるおそる尋ねる。
だって沖田さん何も言わないから。



「あ!プレゼント…。」

「ぷれぜんと?」

「誕生日の人には何か贈り物をするんです。しまった〜もっと考えればよかった。」


今更気付いても後の祭り。
せっかくサプライズパーティの準備はできたのに。




「贈り物か。ねぇ、君はさ。」

「え?」


がしっと手首を掴まれた。
痛くはないけれど力強い。



「まだ、もとの時代に戻りたいって思ってる?」

「それは…。」



戻りたくないと言えば嘘になる。
だけど、戻りたいとも思えない自分も確実にいた。



「ねぇ。」

「えっ!!!沖田さん!?」


掴まれた手首が思い切り前にひっぱられた。
とんっと軽い衝撃で自分が沖田さんに抱きしめられていることに気がつく。


「君をちょうだい。ぷれぜんとに。」

「え!?あの!」

「いやなの?」

「いやとか、いやじゃないとか…。えっと…とりあえずはなしてください!!!」

「…やだ。」

「沖田さん!!!」



じたばたしてもびくともしない。
私だって子供じゃないからこれぐらいで照れない…はずなのに。

「別に今どうこうしようと思ってないよ。ただ、ずっと僕の傍にいてほしいなって思ったから。」

「沖田さん。」

「総司。」

「?」

「総司って呼んでくれたらはなしてあげるよ。だいたい左之さんとか平助は名前で呼ぶのに。」


え?
もしかして妬いてくれてたんですか?


その事実に嬉しくなって。
と、同時に目の前の人が少し可愛く見えて。

「総司さん。お誕生日おめでとうございます。」

そう言うと沖田さんは私を解放してくれた。
少し頬を赤く染めて。

「じゃ、行こうか。みんな待っていてくれてるんでしょう。」

「はい。」


手をとられ、広間へ向かう。

きっと朝まで続きそうな宴の席へ。

大好きなあなたと共に。






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