「名無しさんはん、ちょっとええどすか?」

「え?」


君菊さんに引っ張られ広間をでた。
ぐんぐん歩いて私の部屋へつく。


「どうしたんですか?君菊さん。」

「原田はんに頼まれたんどす。」


そう言うやいなや、君菊さんは私の服を脱がし始める。

「え!?ちょっ!えぇーーー!!!?」
















「綺麗になりましたなぁ。」


あれよあれよと芸者の恰好になる。
千鶴ちゃん同様、ここでは男装していたけれど。
お化粧して女の子らしい格好初めてだ。


「えっと…。」

「原田はん、部屋で待ってますえ。」

「え?」


君菊さんに背中を押され、私は部屋をでた。
もちろん。左之さんの部屋に向かって。


部屋の前に立つと左之さんの部屋に灯りが付いていた。


「お、きたか?入れよ。」


中の声に導かれるように私はふすまを開けた。


「…。」

「左之さん?どうしました?」

「いや、ちょっと驚いちまった。お前そんなに綺麗になるんだな。」

「きっ…きれ!?」


いや、だって聞きなれない言葉が。
綺麗なんて言われたことないし!


「誕生日はお祝いしてもらえる日なんだろ?」

「え?あ、うん。」

「お前に酌してもらいてぇんだ。」


そう言うと左之さんは私にとっくりを突き出す。
受け取り、お猪口にお酒を注いだ。



「うん、うまいな。」

「平助君がおいしいやつ買ってくるって言ってたから。」

「そうじゃねぇよ。お前が酌してくれたからな。」

「えぇ!?そ…それはどうも。」

「誕生日なんて考えたこともなかったが。」


左之さんがお猪口のお酒を見つめながら呟いた。
無理もない。この時代は一月にみんな年をとる。こんな未来の習慣はないのだ。


「いいな。こういうのも。」

「でしょ?」

「なぁ。」

「ん?」

「来年も祝ってくれるか?」

「もちろん!」


笑って返すと、左之さんがこちらへ近づいた。
そして端正な顔立ちが耳元へ。


「来年も、再来年も、ずっとその先も。お前に祝ってもらいたい。」


おそらく顔が真っ赤だ。
こんなに顔に熱が集まるのを感じたのは今までない。
だって、そんな言葉。

プロポーズみたいで。

恥ずかしくてうつむこうとした私の顔は左之さんの手によって前をむかされ。

文句は左之さんの唇に吸い込まれていった。




ハッピーバースデー、左之さん。



ずっと一緒にいようね。










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