近藤さんは帰ってくるとすぐに勝手場にお酒を持ってきてくれた。
さらに盛り付けさせてくれとさっきからお魚や煮物と格闘中。

新撰組局長が勝手場で調理をしていると隊士さんがみたらびっくりするんだろうな。

何より土方さんに見つからないかハラハラしてしまった。
怒られそうで。

でも近藤さんは土方さんは他の皆さんが部屋でひきとめているから大丈夫だと楽しそうに盛り付けをしていた。

あぁ、そうか。
皆さんきっと贈り物や感謝の言葉を告げていらっしゃるんですね。

そんなことを考えていたら斎藤さんが勝手場に現れた。


「手伝おう。」

「ありがとうございます!斎藤さん、土方さんに何か贈られたのですか?」

「新しい筆を。」

「おぉ。それはいいな。トシは書き物が多いからすぐに筆が駄目になると言っていたし。」

「きょっ局長!何を!?」


いつもいない人物がいて驚いたのだろう。斎藤さんが珍しく狼狽する。


「今日は俺も手伝うぞ!さ、斎藤君は広間に運ぶのを手伝ってくれ。」

「よし!がんばりましょー!!」



―土方の部屋―


「…なんなんだ。さっきから。」


いきなり斎藤が部屋にやってきた。
毎日の仕事について労われ、感謝されて筆を渡された。


そして今。


「土方さん!これ、俺から!」

「これは俺からだ。」


平助の手には新しい髪紐。
原田の手には藍色の手ぬぐい。


「これはなんだ。」

「何って。髪紐。」

「手ぬぐい。」

「それぐらいわかる!!!なんでお前らがいきなりこれを俺にくれるんだ。」

「まぁ、いつもお世話になってるし?」

「たまにはなぁ。」


完全に怪しい。
さっきの斎藤も変だとは思ったが。
こいつらの場合、何かあるとしか思えねぇ。


「正直に言え。何やらかした?」

「ちょっとー!別に何もしてねぇよ!」

「後ろめたいことはないぞ!本当に日ごろの感謝をこめてだなぁ。」

「あやしすぎるんだよ!お前ら正直にいわねぇと…。」


土方の眉間の皺がさらに深くなる。
と、同時にふすまが開いた。


「土方さーん。ちょっといいですか?」

「総司か。今こいつらに話があるんだ、後にしろ。」

「平助と左之さんは近藤さんが呼んでるんですよ。手伝ってほしいことがあるから広間にきてくれって。」


助かったと言わんばかりの表情で二人が素早く部屋をでていく。


「あ、こら。」

「後でまた聞くから!」

「局長命令だからな。土方さん。」


二人が立ち去ったのを見て、総司が部屋に入り込む。だが、座る気配はない。


「どした。話があるなら座れ。」

「いえ、座るほど長居しないので。」


そう言うと総司は土方に本を差し出す。


「土方さんが血眼で探していたものですよ。猫がくわえてたので拾ってきました。こんなもの食べられないし、むしろ胸やけしそうなのに猫も物好きですねー。…じゃ。」


一方的に告げるとものすごい速さで部屋を飛び出した。


「なんだ?…これは…。」


豊玉発句集。



「総司ぃーーーーーー!!!!!!」



雷神降臨。


「待ちやがれ!!!そう…。」


発句集を机に叩きつけるように置くと白い紙がはらりと落ちる。


「なんだ?…眉間に皺ができてますよ。おいしいものでも食べてその皺消して下さい?広間で待ってます。総司の筆跡か?」


眉間の皺の原因の大半がお前だと言いたい土方だが、先ほどからの皆の行動とこの総司の行動が無関係に思えず。

「広間に行けばいいのか?」

土方は広間へ向かって歩き出した。




―広間―


「皆さん、準備できました?」

「ばっちりだぜ!飯も揃ってるし。」

「酒も準備できてるし。」

「お、団子まであるのか。食後に皆で食べよう。」

「なんか帰ってきたらすごいことになってるな。」

「新八さんいいよね。何もしないでおいしいものだけ食べられるんだから。」

「はははは!ついているなー俺。」

「ま、新ぱっつぁんは何もしてないから一番小さい魚なー。」

「何!?この大きな体の俺にそれはないだろ?!」

「おかずのとりあいは今日はなしです!!土方さんをお祝いするんですよ?」


相変わらず騒がしい広間だったが足音が聞こえると皆声をひそめる。


「お。きたか。」


ふすまが静かに開いた。
そこには土方の姿が。


「どういうことだ、これは。」


普段の食事とは違い、明らかにおかずの数が多い。しかも酒や団子まで置いてある。

「まぁ座ってくれ。みんなに俺が頼んだんだ。トシ今日はお前の誕生日じゃないか。」

「誕生日?だからなんだ?」


ゆっくりと近藤の横に座り込む。
目の前の杯にお酒を注がれた。

「大事な仲間の生まれた日を感謝し、祝いたくなってな。俺がワガママ言ってみんなにいろいろしてもらったんだ。」

「近藤さんが?」

「そうそう!だから日ごろの感謝をこめていろいろしたんだって!」

「それで、お前ら筆やら髪紐やら手ぬぐいや持ってきたのか?」

「あぁ。別に何かしたわけじゃねぇよ。」

「はい。料理も彼女ががんばってくれました。」

「斎藤さん…。」


さりげなく私のことも伝えてくれる斎藤さんの優しさに感動する。


「そういうわけですよ、土方さん。だから眉間の皺消してください。」

「お前は何もしてないだろ!」

「やだなぁ。僕も料理したんですよ。」

「はい、沖田さんも手伝ってくださいました。」


そう言うと土方さんは信じられないと言わんばかりに目を丸くする。


「そうか。皆、いろいろしてくれてすまなかった。」

「トシ、そこは謝る所じゃないだろう?」

「…感謝している。」


眉間の皺も消えて。
照れながら感謝を述べる土方さんは。
いつもの鬼の副長じゃなくて。


なんだかちょっと可愛く見えた。
こんなこと言ったら怒られちゃうと思うけど。


近藤さんの一言が終わると皆さん待ち切れなかったのか土方さんが食べだすより先に食事に手をつけていた。

お酒もすすんですぐにお祭り騒ぎ。


いつもなら怒鳴る土方さんも今日はそれを楽しそうに見ていた。


「あ。」


見つめていると土方さんと目が合った。
しまった…見すぎてた。
土方さんって綺麗だからついつい見てしまう。


思い切り目をそらし、目の前のお膳を見ていると横に気配を感じる。


「酒、ついでくれ。」

「え?はっはい!」


いつの間にか土方さんが横に座っていた。
急いでお酒を注ぐ。

「大丈夫ですか?今日はけっこう飲んでますけど。」

「近藤さんが買ってきてくれたからな。たまにはいいさ。」

「飲みすぎちゃだめですよ。」

「久しぶりに楽しいんだ。そう言うな。」


土方さんは楽しそうに騒いでいる皆さんを見つめてそう言った。
忙しく仕事に追われている土方さんにとっては久しぶりの休息なのだろう。

「飯、うまかった。ありがとうな。」

「良かったです。土方さん、お仕事無理なさらないでください。私にも手伝えることがあったらいつでも仰ってください。」

「お前はよくやってくれてるよ。」


あれ?お酒のせい?
土方さんが優しい気がする。


「名無しさん、これからも傍にいろ。」

「はい、どこまでもついていきますね。」


家事しかできない私だけど。
必要とされている気がして嬉しかった。


「あれー。何二人で話してるの?」

「ほら、団子食うぞ、団子。」

「全部なくなっちまうぞー。」

「ちょっと新ぱっつぁん食べ過ぎ!!」

「ほら、トシも食べないか?」

「お茶もあります。」


いつの間にか皆さんが周りに来ていました。
手にはそれぞれお団子を持って。


土方さんは困ったように笑ってました。


でも本当は嬉しいんですよね?土方さん。


お誕生日、おめでとうございます。









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