平助君の場合



「お腹痛い…。」


横になっていることしかできない自分がもどかしい。

動いているよりはだいぶ痛みはマシだが寝ていても痛いものは痛い。


もう目を閉じても模様を描けるぐらい天井を見つめていることにも飽き、障子を開けて外の景色でも見ようとした時だった。


「おーい、起きてるか?」


襖の向こうから聞こえるのは平助君の声。

ゆっくりと体を起こし襖を開けると庭に彼がいた。


「起きてるよ。どうしたの??」

「いや、体調大丈夫か?」



巡察帰りなのか羽織を着たままの彼は縁側に腰を下ろす。
心配して見に来てくれたんだなと思うと嬉しかった。



「お茶淹れてこようか?」

「いいっていいって!そんなの俺が淹れてくるから!それより寝てなくて大丈夫か?」

「じゃあお言葉に甘えて横になってるね。」

「そうしてくれよ。起こしちゃってごめんな?」


眉をハの字にさせて謝る彼に思わず笑ってしまった。
女にとっては毎月のことだけど、男の人にはわからない痛みだ。きっと相当気を遣ってくれている。


「大丈夫だよ。病気じゃないんだから。」

「だけど…痛いんだろ?」

「でもこうしてお話してると気がまぎれるよ。ありがとう平助君。」



そう言うとパッと明るい表情に変わる。平助君が犬だったらきっと尻尾をバシバシふってるんだろうな。


部屋に入り布団に横になると彼も草履をぬいであがってきた。



「あ!あのさ…。」

「何??」

「そのー巡察中に見つけたんだけど…。」

「何を?」

「少しでも気がまぎれたらって思って。」

「???」



目を泳がせながらもう一度庭に戻っていく平助君。なんだか顔も赤い?




「これ!」




多分縁側の下に置いてあったのだろう。
私の視界には入っていなかった鮮やかな紫が目に飛び込んできた。


「わぁ!菖蒲?」

「あぁ。花とか好きかなって思って…みっ見てると少しは気分も良くなるかななんて。」


顔を真っ赤にしながら花を差し出してきた平助君から一輪菖蒲を受け取った。


「綺麗。ありがとう!平助君。」

「俺、花瓶持ってくるわ。」


恥ずかしいのか慌ただしく立ち上がり部屋を出て行こうとする。



「あ…。」



私が行こうかと言おうとした時、平助君が立ち止って振り向いた。


「体調良くなったらさ、それが咲いてたところ見に行こうぜ。たくさん咲いててすっげぇ綺麗だったんだ。」

「いいの?」

「お前に見せたいんだよ…だから二人で、行こうな?」

(二人!?)


そう言って平助君は花瓶を探しに行ってしまった。

残された私はいつの間にかお腹の痛みなんてなくなっていたことに気がついた。



(楽しみだな…二人で出かけるの。)



遠くない未来を思いながら、目の前の菖蒲を見つめていた。







ちなみに菖蒲の花言葉は「嬉しい知らせ・心意気」です☆




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