沖田さんの場合


「あーーーーーー。何もしたくなーーい。」

一人、部屋で呟いた。

何もしたくなーいと言ったけど正直何もしていない状況に暇を持て余している。

お馬がくると仕事は与えられず、部屋で寝ていろと土方さんに言われるのは毎月のこと。

だけど何もしないで三日も四日も過ごすのは厳しいものがある。

もう四日目に突入した私は激しい腹痛もなく少しだけの眠気と戦っていた。


だけど。


「お腹すいた。」


これだけは一日目だろうが四日目だろうが変わらない。

私はお馬の間、なぜかいつもより食欲が増す。
血液がなくなるせいなのか、私だけなのか。

広間ではいつもよりかなり食べる私を見てみんな目を丸くするものだ。

近藤さんだけはたくさん食べろ―って御日様みたいな笑顔で言ってくれるけどね。


「今日の晩御飯何だろうなー。」


まだ晩御飯までだいぶ時間がある。

だけどやることがないとついつい食べ物のことばかり考えてしまって。


「だめだ。女子としてだめだ。」


一人悶々と寝転がっていると廊下から声がした。



「僕だけど、入っていい?」

「沖田さん?どうぞ。」

「調子はどう?」



巡察から帰ってきたばかりなのか、羽織を着たままの沖田さんが入ってきた。
手には何か包みがあり、さらにお茶も持っている。


沖田さんが横に座り込んだので慌てて私も起き上がった。


「どうしたんですか?」

「暇してるかなと思って。」

「その通りです!!!!!!!」

「ははっ。そんな力強く言わなくても。」



初めて出会ったときは殺しちゃうよとか物騒なことを言ってきた人だったけど。
本当は優しいんだよね。素直じゃないだけで。


「ねぇ、何考えてるの。僕の悪口?」

「え!?わ…悪口なんかじゃなくて。」

「なくて?」

「印象?あ、感想?」

「良い感想じゃなさそうだけど。」


あー。沖田さんが意地悪な笑みになっていく。
これはまずい。


「土方さんの書類に墨ぶちまけたこと言っちゃおうかなー。」

「ぎゃーーー!それだけはご勘弁を!」


この前土方さんの書類に墨をこぼした。盛大に。
ちょうど通りかかった沖田さんが猫のせいにしてくれたんだけど。

弱み握っちゃった!ってあの時の笑顔が忘れられません。


「ま、今度一緒に土方さんにいたずらしてくれたら許してあげるよ。」

「なんかどっちにしろ私だけ痛い目みるじゃないですか。」

「だっておもしろいんだもん。」

「ひどい、沖田さん。」

「まぁそう言わないで。ほら。」


そう言うと沖田さんは包みを差し出してきた。


「?」

「あけてみて。」

「わぁ!金平糖とお饅頭!!」

「いつもお馬の時お腹がすくって言うから。今もすいているんじゃないの?」

「お腹がすいて死にそうでした。」

「大げさだな。食べていいよ。」

「わーい!!!」


私は喜んでお饅頭を取り出す。
二個入っていたので一個は沖田さんに渡した。



一口食べると甘みが口いっぱいに広がる。
お饅頭ならお腹も膨れるし、晩御飯までもちそうだ。


「おいしー。幸せです。」

「良かったね。」

「でも、よく覚えていらっしゃいましたね。お馬の時はお腹がすくって。」

「そりゃ毎月この時だけたくさん食べるのを見てたらね。」

「…すみません。」

「それに。僕が君のことで覚えていないことなんてあるわけないでしょ?」

「へ!?」


沖田さん、それってなんか…。
私のことなんでも覚えていてくれてるみたいなんですけど。

「好きなものも、嫌いなものも。君のことならなんでも覚えていたいし。一番近くにいて君をこうして笑わせてあげたいし。」

「ちょちょちょ…沖田さん!?あの…。」

「ん?何?」

「いや、何ではなく!なんかそれ・・私のこと好きって言っているみたいですけど。」

「?好きだよ。当たり前でしょ。」

「!?!?」

「けっこう今までもわかりやすくしていたつもりなのに。なんで君ははっきり言わないと気がつかないのかなぁ?」

「だだだって!わからないですって!」

「ちなみに君以外はみんな知ってるからね。」

「えぇ!?」

「早くお馬終わるといいね。そうしたら二人で外に甘いものを食べに行こう。君が部屋にこもっているとつまんないんだよね。」

「は…はい。」


そう言うと沖田さんは初めて意地悪じゃない優しい顔で笑ってくれた。


お馬だというのに、晩御飯が胸いっぱいでほとんど食べられなかったのは初めてで。


そのせいで他のみんなに心配をかけたのは言うまでもない。







←過去web clap


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -