―弟は生意気?  山崎編―



「はぁ…。」

「…。」


うん。烝の痛い視線を感じるけれど気にしない。


私は今日発売されたばかりの少女マンガに夢中なのであります。
烝は烝で少年マンガを読んでいるわけで。


ソファに並んで座っている私達を見て仲良しねと笑いながら両親は出かけて行った。


烝は本当の弟じゃないけど、もう一緒に暮らし始めて一年が過ぎた。
口数は少ないけれど、良い奴だと思う。



「うあー!終わっちゃったー!良かったー!最後良かったー!!!」

「静かに読めないのか、マンガぐらい。」


本に視線を落したまま、烝が呟いた。

「読めないよ!だって、やっと二人が結ばれたから。もう山あり谷あり崖ありで!」

「崖って何なんだ…。」

「とにかく!幸せなラストだったのー。いいよねー!キュンキュンしちゃうよ!見て見て烝!!!」



烝の手から無理やりマンガを奪い取り、私が読んでいたマンガを渡す。


様々な試練を乗り越えた二人はやっと最後にお互いの気持ちを確認して。
男の子が女の子を抱きしめながらずっと一緒にいようと約束する。


「ベタなのはわかってるんだよ!?でもこの純愛みたいのに弱いじゃん!女の子は!!!」

「…。」



パラパラと軽く読んで烝は本を閉じた。


そのままくるりと体をこちらへ向ける。


「こういうのがいいのか?」

「え?うん。」

「…。」



一瞬考え込むように下を向いた烝。
だけどすぐに顔をあげ、私をまっすぐに見つめてきた。


「烝???」



烝が動いた。
そう思った時には目の前は烝の胸元。

ソファから本が落ちた音がリビングに響く。


「俺はあなたが好きです。」

「え。」

「誰よりも笑っていてほして、幸せになってほしくて、大切で。」

「烝?」

「ずっと一緒にいたい。」


耳元に零れおちてくる声がくすぐったくて。
だけど、真っすぐに心に響いた。


「あの…私。」

「弟にしか見てないってわかってる。だけど。」


やっと解放してくれた烝はそれでも私の肩を掴んだまま。


「これからは弟じゃなくて。男として見てください。」

「…。」



真剣な声に、目に、仕草に。


「生意気!!!!!」



思わずリビングを飛び出した。



だけど、真っ赤な顔は完全に見られた。
今頃絶対笑ってるはずだ。


 「くそーなんなんだ。」


マンガの真似とかずるい。
あとでからかっただけとか言われないように。



意を決して踵を返す。




私を振り向かせるのはすっごい大変なんだから!と伝えるために。









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