―弟は生意気?  藤堂編―



私に弟ができました。


「平助、ジュース飲む?」

「飲む飲む!」


お風呂上がりでまだ髪の濡れた平助にジュースを差し出す。
笑顔で受け取るとぐびぐびと一気飲みした。

「うまーっ!」

「いい飲みっぷりだね。」

「もう一杯!」


満面の笑みでグラスをこちらへ突き出す。


「あ、今のラスト。」

「えぇー!?」



笑ったりしょんぼりしたり忙しいくらい表情が変わる。
本当に可愛い弟。




両親が再婚して、一つ年下の弟ができた。
といっても一つしか変わらないわけで。
同じぐらいの年の男の子と一つ屋根の下ってどうなることかと思ったけど。
素直で可愛い平助とはうまくやっていける気がした。


「ほら、さっさと髪乾かさないと風邪ひくよ?」

「はいはい。」


がっかりした平助が髪を乾かしにリビングを出ていく。

「ジュースもないし、アイス食べたいし。コンビニいこっと。」


夜とはいえまだ八時だし。
コンビニまでは五分ぐらい。
私はお母さんにコンビニに行くと告げると財布を持って家をでた。



コンビニでアイスを買い、平助の好きなジュースも買って家へと向かう。

早くアイス食べたいなぁなんて思っていたら背中から声がした。

「ねぇ、君。」


振り向くと男の人が一人。
大学生ぐらいかな?


「はい?」

「この辺に住んでるの?もしよかったら、今からご飯食べに行かない?」


ニコニコと優しい口調で言ってくるけれど。
これ、ナンパ???


「いや、家に帰らなきゃいけないので。」


愛想笑いを浮かべてそう答えると私はまた歩き出した。


「待ってよ。そう言わないでさ。」


がしっと手首を掴まれた。
顔は笑ってるけれどその力が強くて。



一気に怖くなった。


「!?はっはなしてください。」

「そんなこと言わないで行こうよ?」



相変わらず男の人は笑ってるけれど手をはなしてくれない。


どうしよう!?どうしよう!?


携帯置いてきちゃった。


どうしよう…怖い…。


誰か…。


「あのさ、俺の彼女に何か用なわけ?」


後ろから聞きなれた声がした。


振り向くとそこにはいつもと違って少し怒ったような表情の平助が立ってて。


「何だよ、お前。」

「聞こえねえのかよ?俺の彼女に何か用なのかって聞いてんの!」



そう言うと平助は私達の方へ来て男の手を振り払い、私を自分の後ろに庇うように引っ張った。



「彼氏持ちかよ。」



そう言うと男の人は悪びれる様子もなくどこかへ行ってしまった。


「大丈夫か??」


とりあえず助かったことに安心したのか、思わず目から涙がでた。


「うわっ!泣くなよ!」


少し乱暴に私の目元をこすると心配そうにのぞきこんできた。


「怖かった。」

「そうだよな?ごめん、もう少し早く来ればよかった。」

「ありがと。平助。」



泣き笑いになるけれど、お礼はちゃんと言わなきゃ。
私が笑ったことに安心したのか、平助も笑ってくれた。


家までの帰り道。
安心した途端、さっきの平助の言葉が頭をよぎった。


「そういえば、さっき…。」

「ん?」

「彼女って。」

「あっ!いや、それは…そのー。」

「うん、そのほうがあの人が諦めてくれると思ったんでしょ?ありがとうね?」

「あー。」


困ったように目を泳がせる平助。


「どうしたの?」

「さっきのはそうなったらいいなって願望!」

「え?」

「だから!彼女になってほしいんだって!」

「え!?えぇ!?!??」

「すぐにはそう見れないかもしれないけど。俺、好きなんだ。」

「すき?」


真っすぐ真剣に見てくる平助はいつもの可愛い平助じゃなかった。


「弟なんて思うなよ?」


ニヤリと笑うと私の手をとって、ぐんぐん家まで歩き出した。
その手が思っていたより大きくて、並んで歩くと意外と背中も広くて。



家に着くまでに、赤くなった顔がもとにもどるか、それだけが心配になったのだった。








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