―お兄ちゃんは心配性 風間編―



私の兄は。



なぜか。



私を溺愛中。






「どこへ行く。」

「友達の家。」

「何時だと思っている。」

「えーと、まだ六時ですけど?」

「もう外は暗い。出歩くのは明日にしろ。」

「お断りします。」

「そしてなんだその格好は。肌を出し過ぎだ。出すのは俺の前だけに…ぐっ!」



私の拳が炸裂した。



「黙れ変態!普通のショートパンツだろーが!!!!!しかもたかだか十分ぐらいしかかからない友達の家いくのに何であんたの許可が必要なんだよ!?放っておいて!!!」



こんなやりとりが。
毎日。
365日。
年中無休で続いてる。




私はきっと可哀想だ。
自分で言うのもなんだが、可哀想だ。



母親が再婚した。
ずっと一人で私を育ててくれたことに感謝してるし、再婚も賛成だった。
だけど。
母親の再婚にはとんだおまけがついてきた。


それが、この兄貴。
千景。
私より二つ年上。
文武両道、顔も整っている。
だけど性格は破綻している。




「いってきます!」

「待て!俺が送っていく。」

「けっこうです。千景はレポートでもやってたら?」

「千景兄様と呼べと何度言ったらわか…。」



もう一度拳を構えると千景は静かになった。




が。



「本当についてくる奴がいるかなぁ。」

「我が妹は他人が放っておけないほど美しいのだ。俺がいなければ今頃どこに連れ去られているか…。」

「真顔で言うのやめてくれる?かゆくなるから。」

「何故だ。」



この人本当に頭のねじが一本…いや、全部とんでるんじゃないのかな。
妹をここまで綺麗だのなんだの言えるっておかしくない?


「普通妹をそんなふうに言わないし、こんなふうに扱わないよ。」

「当然だ。お前は妹ではない。」

「は?」

「お前は俺の妻となる女だ。」

「………。」



今なんか妻とか聞こえた?
いや、気のせいだ。気のせいにしておけ。



「千景兄様と呼べぬのなら千景様でいい。」

「…。」

「お前のような女は初めてだ。俺にふさわしい。お前は俺のものだ。誰にも渡す気などない。」


さらさらと流れるようになんだかすごい言葉が放たれている気がしたが、思考がまったく追いつかない。


いや、溺愛されている気はしていたけど。
この人、私を妹としてではなく。
女の子としてみてたわけ!?

「死ね!変態!!!」


振りかざした右腕を素早く掴まれ引き寄せられる。


「っ!」

「威勢のいい女は嫌いではない。」




近くで見ると、整った顔立ちがよく見えて。
その目にすいこまれそうになって。


ゆっくりと近づいてくる千景に。



思わず目をとじ…





 「閉じるか!はなせ変態!」




油断していたであろう顔面に一撃をお見舞いした。



「ぐっ…なっ何をする。」

「知るか!もうここでいいから帰って!」


私は走るように友達の家へ向かった。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


ドキドキしてしまったことが。


悔しかった。









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