はっぴー☆はろうぃん ―斎藤編―



「お願いだから、返してよ、一。」

「駄目だ。菓子は没収だ。」



ただいま風紀委員の一と教室で机を挟んでにらめっこ。
ハロウィン用のお菓子を持ってきたのを見つかってしまったのだ。


「だってこれ持ってないとイタズラされちゃうよ。沖田君とか怖いよほんとに。」


沖田君のイタズラとかえげつなさそうじゃん?
そう言うと一は眉をぴくりと動かし


「…総司には俺から言っておく。だからこれは没収だ。」


とだけ言った。



「他にも千鶴ちゃん用でしょ、こっちは土方先生、原田先生、永倉先生、あと藤堂君と南雲君。風間先輩にもあげないとうるさそうだし。」



次々とあがる名前に一はため息をついた。
相手を想像できるだけに有無を言わさず没収とできないんだろうな。

ほら、風間先輩とかイタズラがセクハラになりそうだし。


「せっかくかぼちゃのクッキー作ったからみんなで食べたいよ、一。」

「だめだ。」



どうしてだろう。
確かに一は校則には厳しいけれど放課後までこんなにうるさく言うことはあまりない。
見逃してくれることも多いのに。
今日は何が何でもだめらしい。



「どうして?いつもは許してくれるのに。」

「…わからないのか?」

「うん。」



そう言うと一は椅子から立ち上がり私の横に立った。
私は座ったままだから見上げる形になるんだけど。
相変わらず無表情の一に思わず立ち上がる。


私が立ち上がるのと一が私を抱きしめるのはほぼ同時。


「え!?」

「…。」

「どうしたの?一。」



学校でこんなこと絶対しないじゃん。
いくら誰もいないからって。


「…トリックオアトリート。」


綺麗な発音が耳元に流れてきた。
え?
これ、お菓子くれなきゃイタズラするぞ…ですよね?


私は慌てて椅子にかけてあった自分のカバンに手を伸ばす。
一にはクッキーじゃなくてパウンドケーキを焼いてきていた。
そもそも一がハロウィンに参加するなんて思ってもいなかったし、帰りに渡そうと思っていたからカバンに入れていたのだ。


「はい、ハッピーハロウィン。」

「これは俺の分なのだろうか?」



やっと私を解放してくれると一はケーキの入った袋を受け取る。


「うん。一は特別。」

「そうか…。」



ふわりと嬉しそうに微笑む一に胸がキュンとする。
もしかして。
一ったらヤキモチ妬いてたの!?


「もしかして自分の分がないと思ってた?」

「いやっ…そのようなことは。」

「みんなのがあるのに自分のだけないからショックだったの?」

「それはその…。」


みるみる顔を赤くする一が愛おしくて。
ヤキモチを妬いてくれたのが嬉しくて。


「一、大好き!」


今度は私が抱きしめた。
そして耳元に落とすあの言葉。


「トリックオアトリート?」

「…お菓子はない。イタズラできるのか?」

「うー…。」

「なら、俺がするか。」



それは期待と後悔の五秒前。












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