はっぴー☆はろうぃん ―原田編―



「原田先生!!!トリックオアトリーーーーーート!!!!」

「うおっ!?」



すごい勢いで俺の背中に飛びついて、ハロウィンの決まり文句を言ってきたこいつは俺の恋人。
先生と生徒というまさに禁断の関係なわけだが、こっそりと静かに清きお付き合いをさせていただいている。



「お前こんな時間まで待ってたのか?」



時計はもう八時をさしていた。
まだ少し仕事を残していたが家に持ち帰ろうと車へ向かっているところ、襲撃にあったわけだ。



「うん。図書館で勉強してた。で、トリックオアトリート!!!」



おいおい。あまりキラキラした目でこっち見るなよ。
…我慢できねえだろうが。


俺はポケットやカバンを探るが何もでてこない。
そりゃそうか。甘い物なんてわざわざ買わねえからな。



「悪いな、菓子なんて持ってねえ。」

「えー。じゃあイタズラするぞ♪」

「イタズラ?」


聞きかえそうとした瞬間。
ぐいっとネクタイを引っ張られる。

と、同時に柔らかい感触が唇に触れた。


「えへへ。もーらい!」


そう言って笑うとぱっと離れて言葉を続ける。


「先生、お腹すいたー!なんかご飯食べ行きたいな!」


のんきに呟いて俺の車に乗り込むあいつに続くように俺は車に乗り込んだ。



「先生、ハンバーグ食べたいな〜。」


ニコニコご機嫌に座っている横顔はいつも通りの子供なあいつなのに。


らしくねえ。
なんでこんなにドキドキするんだ。
情けねえな。


今までキスぐらいしたことはある。
それ以上はこいつが卒業してからだと散々抑えていたっていうのに。

俺の理性にがんがん攻撃してきやがって。


信号が赤に変わり、ブレーキをかけ、ちらりとあいつを見ると携帯をいじっていた。

おい、まさか男じゃねえだろうな。
ってホント俺余裕ねえな。


「そういえば、俺も言ってなかったな。トリックオアトリート。」

「え?先生お菓子ほしいの?はい、チョコあげる。」

「いや、こっちがいい。」

「?」


肩をひきよせて顎を掴むと上に向かせてキスをした。
一瞬何が起こったかわかんなかったのか目を丸くしていたがすぐに俺から離れようとする。


離すわけねえだろうが。


後頭部を抑え込むようにするとさらに深く口づける。
ここまでしたのは初めてだ。


「んっ!!ん…ふっ…。」


信号が変わる少し前に解放してやる。
ギッと睨みつけるように俺を見てるけど涙目じゃ何も怖くねえぞ。


「先生の馬鹿!なんで…。」

「俺にイタズラしようなんて百年早えんだよ。」


アクセルを踏み、こいつの望みをかなえるため車を走らせる。ハンバーグだったか?
ペットボトルの水を一口飲んだところでようやく俺の心も落ち着いてきたらしい。


ふてくされたような表情をしたあいつがこんなことを言うまでは。


「…後でもう一回。」

「ぶはっ!」



思い切り水をふきだし、むせる俺を見て、楽しそうに笑っていたあいつに。
早く卒業してほしいと心から願った俺だった。








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