はっぴー☆はろうぃん ―土方編―



「トリックオアトリート!土方先生♪」


ああ。
なんでこんなことを言ってしまったんだろう。

私はすぐに後悔した。







静かな国語準備室には私と先生の二人きり。
もちろんそれを狙いに遊びに…いや、宿題について聞きに来たわけなんだけどね。


そういえば今日ハロウィンじゃんとか思ってついふと言ってみたんだ。あの決まり文句。


そうしたら先生は少し目を丸くして、でもすぐにいつもの顔に戻ると机の隅に置いてあったガムを掴んで私に投げた。


「ちょっと、先生。適当すぎ!」

「うるせえ。それぐらいしかねえよ、ここにはな。」


コーヒーを飲みながらプリントを採点していく横で私も宿題を解いていく。


「できたー!先生ありがとうございました!」

「おお。」


相変わらず視線はプリントへ落ちたまま。
なんだかそれがつまらなくて。
私の方を見てほしくて。


先生の後ろに立って思い切り抱きついた。


「うわっ!…てめえ、人が採点してる時に何しやがる!」


そこ?
つっこむとこそこなの?
一応生徒に抱きつかれたんだからもう少し慌ててよ先生。


「だって先生かまってくれないんだもん。」

「ガキが何言ってんだ。」


知ってるよ。
先生から見たら子供にしか見えないことぐらい。
私の手を静かに引きはがすと先生は赤ペンを置いてこっちを向いてくれた。


「どうした、一体。」

「先生のこと好きなんです。」

「っ…。」


先生の顔が困ったように歪んだ。
私から視線を外すと何か考えているみたい。


あれ?もうひと押し??


「好きなんです。先生。」

「俺は教師だ。お前は生徒。好きって言われても何もできねえよ。わかんだろ?」

「でも好きです。」


椅子に座っている先生に抱きついた。
また離されるかと思ったけれど抱きとめられる。


「先生?」

「それから、俺はただの教師じゃねえ。」

「え?」

「トリックオアトリート?」

「あ、今お菓子持ってなくて…。」



ゆっくり顔をあげると先生の表情がいつもと違う?
ニッと笑う口元には人より長い八重歯が…八重歯!?ってかキバ!?


「せっ先生?なんかキバが…ドラキュラみたいになってますけど。」

「ああ。俺はドラキュラだからな。お菓子がねえんじゃイタズラしていいよな?」

「えぇ!?あ、わかった。ハロウィンだからでしょ。だまされませんよー!」



慌てて離れようとしたのに先生は離してくれなかった。そのまま先生は立ち上がりくるりと向きを変えると私を机に押し倒す。



って押し倒された!?



「先生!?」

「お前の血、もらっていいか?」

「えぇ!?先生!?ちょっちょっと待って!」



首元に先生の顔が近付いてくすぐったい。
いや、ちょっと待って。
どこまで冗談?どこまで現実!?
どっちにしろ、こんなところじゃだめだって。


「だ…だめ!先生!」

「うるせえ。」


先生の口で塞がれて、もう何も言えなくなった。
そしてそのまま私は………。







――――――――――――――――――――






「ってなわけでですね。お菓子を持っていなかった私は先生にあんなことやこんなことされたわけで。」

「てめえ…もう少しマシな言い訳は思いつかねえか?」


あ、土方先生の眉間の皺が増えた。
私の隣に座っていた総司なんて爆笑し過ぎて息ができなくなってる。


「それが理由で菓子持ってきたって言いたいわけか、てめえは!!!」

「ひぃいいいい!!」



ハロウィンやバレンタインの時はお菓子の持ち込みが禁止になるというわけのわかんない校則があったことなんてすっかり忘れていた私と総司は。
いつも通りお菓子を持ってきていてただいま職員室に呼び出しくらってます。


「っくくく!だめですよ、土方さん、生徒襲っちゃ。ってかドラキュラだったんですね、怖いなー。血吸われちゃうな〜。」

「総司!!!」

「だめだもうお腹いたい!ちょっと飲み物買ってきます。」

「あ、逃げた!」


ふらふらと歩きながら総司が職員室を出ていってしまった。
う…裏切り者!!!


「ったく…。菓子は没収。反省文は勘弁してやる。」

「すみません。」

「それから。」

「??」

「変な夢見てんじゃねえ。それとも…。」



ぐいっと引っ張られ、耳元に先生の声が落ちてくる。


「っ!!!先生の馬鹿!」


総司を追うようにバタバタと職員室を飛び出した。
後ろを振り向くと意地悪そうに笑う先生が私を見ていた。



――本当にそういうことされてえか?



そんなこと言うなんて教師失格だ!


だけど。


いつかそうしてくださいって言ってしまおうかと思う自分がいて、少しだけ顔がにやけてしまった。








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