付き合ってからもう五年。
片思いの時から渡していたから今回のチョコで七回目か。
今年のチョコも左之はおいしそうに食べてくれた。
甘い物、そんなに得意じゃないくせにね。
そんなバレンタインデーからもう一ヶ月がたつ。


「コーヒー飲むか?」

「うん。」


左之のシンプルな部屋に私の物が少しずつ増えていって、もう自分の部屋よりも居心地がよくなってしまっているこの部屋に週末いることは完全に習慣になっていた。

寝起きに左之が淹れてくれるコーヒーを飲むことも。
朝ごはんは左之が作ってくれることも。
それも完全な習慣だ。


なのにどうしても。
日曜日の夜に自分の家に帰らなくてはいけないことだけは慣れないんだ。

寂しいけど仕方ない。
子供じゃないんだからと自分に言い聞かせて。
我儘言えるような年でもないし。


朝から暗いことを考えていた私に左之が声をかけてきた。


「今日、行きたいところがあるんだけどいいか?」

「え?いいよ。珍しいね。左之がそんなこと言うなんて。買い物?」

「ああ。」

「服?私も少し買いたいなあ、給料でたし。」

「いや、違う。」

「え?」


コーヒーをテーブルに置き、目の前のトーストに手を伸ばそうとしてやめた。
黄金色の瞳が真っすぐに私を見ていたから。


「今日買いに行きたいのは指輪だ。」

「え?指輪?」

「ああ。俺の左手と、お前の左手につける指輪だよ。」

「左手…?え?それって…。」

「いくつか店は見つけておいたから。一緒に選ぼうぜ。ああ、今日は休みだからどっか平日に休みとって役所にも行って…。」

「左之?あのそれって…。」

「…日曜日の夜。」


左之は立ち上がると私の横に歩いてきてかがんで私の頬に触れる。


「もうお前に寂しい顔させたくねえんだよ。」

「さ…の…。」

「俺の嫁さんになってくれよ。」


わかってたんだ。
左之はずっと私が寂しいと思っていること。


「こんなプロポーズで良かったのか?前にお前がプロポーズは家で自然にされたいって言ってたから…本当はちゃんとしたところでやろうかとも迷ったんだけどよ。」


くしゃりと自分の髪に触れ困ったような顔をしている左之が愛しくて。
私はその胸に飛び込んだ。

「それと…悪い。指輪とかプロポーズとか考えすぎてて、ホワイトデーのこと忘れてた。」

「いいよ、そんなの!私すっごい嬉しいよ!!!」

「毎年お前はちゃんとくれるのにな。」

「それは私がやりたいからやってるの。気にしないで。」

「そっか…。じゃあまた来年もくれるか?」

「当たり前だよ。だから傍に居てね?」

「ああ。」



――来年もその先も――



(俺の夢はお前と娘からずっとバレンタインにチョコを貰うことだな。)

(気が早いんだから。…男の子だったらどうするの。)

(お前のチョコは譲れねえな。)

(左之ったら…。)



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