今日はホワイトデー。


バレンタインデーほどじゃないけどやっぱり朝から風紀委員達は目を光らせていて何人かの男の子がお菓子を没収させられていた。
ああ、ホワイトデーは大丈夫だろうと油断したんだね。
その姿を見て、一ヶ月前の自分を思い出す。



私にできることといえば、心をこめてチョコを作ること。
そしてそれを確実に斎藤君に渡すことだった。

だから学校になんてもちろん持っていかない。学校に持っていった他の子達は見事に没収されていた。

私はバレンタインデーに学校にチョコを持ってくるなんて丸腰で戦場へ向かうようなものだと思うんだよね。


だって斎藤君は風紀委員。しかもそこらの風紀委員とは厳しさが段違いだ。
敵だよ敵。ラスボス級の。
そんな彼にチョコ持ってくなんてラスボスに薬草持っていくようなもんだよ、あれアップルグミだっけ?ポーション?

まあいいや。
だから私は放課後、一度家に帰って部活帰りの彼にチョコを渡したんだ。
一度帰ったし、今は放課後だからいいですよね?と聞くと彼は少し驚いた顔をして、「ああ。」と受け取ってくれた。




そしてチョコにメッセージをそえた。


――いつも部活お疲れ様。美味しくなかったらごめんね。


ああ。
そんな長々と書けるのに。
どうして好きの二文字が書けないんだろう。


次の日、斎藤君から一言「美味かった。」と言葉を貰っただけで私の心は満足したの。
だから。


ホワイトデーなんて別に関係ない。
ちらりと斎藤君を見る。
彼はいつも通り、自分の鞄しか机にかけていないし、それ以外の荷物も見受けられない。
ということは、誰にも何も持ってきていないということでしょう?


まあ没収する側の彼がホワイトデーにお返しを持ってくるとは到底思えないし、多分他の女の子たちもそこは期待していないだろう。


だけど、こんな風に彼の荷物を確認してる時点で何かを期待しているのであろう自分に嫌気がさした。




放課後。
風紀委員の目をかいくぐってお菓子を守りきった男の子たちが何人かいて、それぞれの相手に渡していた。


それを見ながら鞄に荷物をつめていると隣にすっと誰かが立った。
顔をあげれば想い人。
思わずびくりと体を震わせガタンと机が音をたてた。


「斎藤君…。」

「今日は何か予定があるだろうか?」

「え?」

「ついてきてほしいのだが。」

「ええ!?」


予定はない、ということだけなんとか伝えると斎藤君は私の腕をひいて教室を出ていく。
あの、斎藤君。
周りの視線とか、声とかその他いろいろ気にしないのかな?


学校を出ても斎藤君は相変わらず私の腕をひいていて、スタスタと歩いていくものだから何て声をかけていいのかもわからない。


「あの…。」


それでも勇気をだして声をかける。
その声に斎藤君は反応した。…過剰なぐらいに。


「っ!!!!あ、すっすまない!」


バッと音がたちそうな勢いで腕が解放された。
気のせいかな?少し顔が赤い気がする。


「…ちょっとここで待っていてくれ。」

「??」


気がつけばもう駅前まで歩いてきていたようだ。夕方ということもあり周りには人がたくさんいて、斎藤君は人ごみに紛れるように駅の方へと走って行った。


数分後。
斎藤君が小さな紙袋を持って戻ってきた。


「斎藤君、それ…。」

「学校に持ってくるわけにいかないからな。」


まさか駅のコインロッカー利用したんですか?
そこまで徹底してるなんて…さすが風紀委員。


え、でもちょっと待って。
ということはこれ…。



「お返しだ。バレンタインの。」

「私に…?」

「他に誰がいる。」

「だって…。」


紙袋を受け取り中を覗くと透明の袋でラッピングされたクッキーが入っていた。


「俺は、あんたからしか貰っていない。」

「え?」

「バレンタイン。あんた以外のものは全て断った。」

「それって…。」

「あんたの心のこもったチョコは美味しかった。…だから俺も、心をこめて作った。受け取ってくれるだろうか?」


て…手作り!?
思わず叫ぶと斎藤君はふんわりと微笑んでこう言った。



――こんなことをするのはあんただからだ――



(もったいなくて食べられません…。)

(それは困る。手作り故、早く食べてもらいたい。なんなら俺が食べさせるが…。)

(そそそそそんな!)

(ほら、口をあけろ。)

(あーん…。)





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