バレンタインデーと対になっているホワイトデーとやらが昔から面倒だった。
別にくれと言っているわけでもねえのにチョコを持ってくる相手にお返しとやらをしなくちゃならねえ。
こんな面倒なことなかなかねえだろ。


そんなこととは無縁になれると思っていた俺に現実はそう甘くはないと教えてくれたのは教師になって最初のバレンタインデーだった。

ガキはガキ同士で恋愛してろと言っても義理だの本命だの次から次へと持ってくる生徒に教師は受け取れねえと一々言わなくちゃいけなかった。

原田先生は受け取ってくれたと言う生徒に内心舌打ちしつつも決まりは決まりだと言って全部突っ返していた。
ついでに隣の席の原田を蹴っ飛ばしておいた。


そんな俺が。
まさか今年のバレンタインデーに生徒からチョコを受け取り、ホワイトデーに何を返そうか頭を悩ませることになるとはその時の俺は考えもしなかっただろうよ。


「土方さん、結局何にしたんだよ、お返しは。」

「ああ?別にたいしたもんじゃねえよ。」

「それにしても土方さんが特定の誰かからチョコを貰うとは、俺は未だに信じられねえな。」

「ちっ…。お前はどうなんだ。原田。」

「そりゃ俺にくれた子にはちゃんと返すさ。」

「まさか全員か!?」

「ああ。」


律儀なもんだ。
まあそういうところが女にモテるんだろうが。


「ほら、それ。やっておくよ。」


そう言うと原田は俺の手元にある書類を奪い取り、自分の席に座る。


「お前…。」

「いつまでも待たせちゃ可哀想だぜ?土方さん。」

「…すまねえな。」

「後でうまーいビールでも奢ってくれりゃあそれでいいさ。」


俺は急いで荷物をまとめると原田にもう一度礼を言って職員室を出た。
そして。
あいつが待っている図書室へ向かう。


図書室に入るとそこにはあいつしかいなかった。そりゃそうだ。外はもうすっかり暗くてほとんどの生徒は下校しちまっただろうからな。


「土方先生!もう終わったんですか?」

「ああ。待たせて悪かったな。」

「いえいえ!でもどうしたんですか?今日の放課後あけておけって…。」


どうしたってこいつ本気で言ってるのか?
今日は…ホワイトデーだろうが。


「お前なあ…。」


俺は鞄からプレゼントを取り出すとため息をつきながら差し出す。
するとお前は目を丸くしてしばらくプレゼントを眺めていた。

「今日は…あれだろ。ホワイトデーってやつだろうが。お返しだ。」

「先生…私に?」

「お前以外に渡す相手なんていねえよ。」


自分でも信じられねえんだよ。
まさか生徒に惚れるなんて。
だけどそうなっちまったんだ。


「あけていい?」

「ああ。」


プレゼントの中身は大したものじゃねえ。
だけどそれを見た瞬間、こいつの顔がよぎったもんだからつい買っただけのことだ。


「時計!!」

「それなら普段つけられるだろ。」

「ありがとう!先生!!!」


嬉しい!可愛い!とはしゃぎながら時計をつける様子に自然と頬がゆるんだ。

「…っとに単純だな、お前は。」

「ええ!?だって好きな人から貰えたら何だって嬉しいです。ずっとつけてますね!」


ぎゅっと握りしめるように時計の上から自分の手首を握るお前に。
年甲斐もなく胸が跳ねた。



――単純なのは俺の方だ――



(先生!これからどうしますか!?デートですか!?デートなんですか!?!?)

(うるせえ。静かにしろ。それから。)

(??)

(外では先生はやめろ。…名前で呼べよ。)

(はい!歳三さん!!!)

(っ…(くそ、可愛いな。))





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