ポケットに小さな包み。
その中には甘い甘いキャンディ。



廊下をのんびりと歩けば何人かに声をかけられた。
みんなねだるような目をしてさ。
今日は何の日?なんて馬鹿みたいな質問するんだ。

「さあ?何の日だったっけ?」

と返せば。
もう、ホワイトデーだよと。

頬を膨らませる子もいれば少し怒った顔をする子もいて、逆に何でもない…って沈む子もいた。
共通していることはみんなバレンタインデーに僕に何かをくれた子ってこと。
義理も本命もいるんだろうけれど、今の僕にはそんなこと関係ない。

ああ、こんなこと言ったら一君とか平助君は怒るんだろうな。
義理でも本命でも貰ったんならお返ししろって言いそうだ。


だけどさ。
義理ならともかく、本命のつもりでくれた子にその気もないのにお返しするほうがよっぽどひどいと思うんだけど…。


そんなことを考えながら僕が足を向けたのは屋上。
昼休みだけど人はいない…ことになっている。
屋上は立ち入り禁止でここに入るには職員室にある鍵を持ってこなくちゃいけない。
だけどきっと。
今日は開いている。


ガチャリとノブを回せばすんなりと開く屋上への扉。
そしてそこにはいくつかのお菓子の包みに囲まれた君が居た。


「またさぼってるんだ。風紀委員とは思えないね。」

「あ。総司君。」

「鍵は?」

「普段使わない鍵なんて無くなってても気づかないものなのよ。」

「…。君、本当に風紀委員?一君が知ったら三時間説教コースだよ。」

「ふふふ。普段は真面目だからね。灯台もと暗し、近くの人間には注意が向かないものよ。」


そう言って笑う君にすぐ近くに見える青空がとても似合った。

いつからだったかな。
ここで君と会うようになったのは。
大抵今日みたいによく晴れた日で。
決まって君は一人で、そして僕も一人だから。
自然と会話するようになったんだ。


「ま、君がそんなのだから僕も堂々とここで昼寝ができるんだけど。」

「そうよ、感謝したまえ、総司君。」

はははと笑うのが豪快すぎてつられて笑ってしまう。
でも僕の視線はすぐ君の周りのお菓子へ移動し、きっと笑顔もすぐに消えた。


「それは。」

「え?ああ、ホワイトデーだって。」

「それだけ貰ったってことはそれだけあげたってこと?」


僕以外にも。
あげたってこと?


「ううん。これは女の子がくれたの。バレンタインにチョコ持ってきてたの見逃してあげたらね、お礼にみんながお菓子くれたー。」


ねえ本当に君は風紀委員なの?
一君なんて片っ端からチョコ没収してたのに。


「だってそんなイベントでもないときっかけ掴めない子もいるわけで。」

「まあ…ね。」

「そういう子達にとってそういうイベントはものすごく大事なんだよ。」


君も。
そうなのかな?

「ねえ、君は…。」

「私も意気地なしだからね、総司君。気持ちわかるから彼女達のチョコを没収するなんて野暮なことできなかったのさ。」


ねえ気付いてる?
君、墓穴ほってることに。


「そう。」

「みんなお返し貰えてたみたいだし。本当に良かった…。」


小さな呟きが空へと消えていった。
君って人のことでも本当に嬉しそうに笑うんだね。


「じゃあそんな優しい君に僕からもお返し。」


ポケットからキャンディが入った包みを渡すと君は目を丸くして受け取った。

「私に?」

「他に誰がいるのさ?」

「ありがとう!!!…総司君って意外と律儀だね。」

「…それはどうも。」


少しだけ。
ほんの少しだけ君の鈍さとか失礼な発言とかに僕の意地悪心がくすぐられたからさ。


――本命ってことはまだ内緒だよ――


(一君!!総司君からお返しもらえた!)

(総司が…?なるほど、あんたが本命か。)

(え?)

(あいつは他の誰にもお返しを用意していないようだが?)

(そ…それって!!!)





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