放課後。
いつもなら静かであろう職員室は賑やかだった。


土方先生に課題を提出しに行ったんだけどそこには何故か総司も一も平助もいて。
しかも原田先生と永倉先生まで会話に参加している。

土方先生は私から課題を受け取るとあいつらをどうにかしてくれと言わんばかりの視線を投げかけてきた。

すぐ横で議論し合っている五人の話に耳を澄ませてみる。


「で、結局のところどうすればもてるんかなー。左之さん!!」

「おい平助、いきなり何を…あ、そうか。そろそろバレンタインか。」

「平助君は単純だよね。いくらチョコ貰いたいからって…。」

「べっ別にバレンタインだからとかじゃねえし!誰だってもてたいって思うだろー?」

「おう!わかるぞ!平助!!!男だったらもてたいって思うよな!!!」

「…なんか、新八っつぁんに賛同されると複雑な気持ちになるんだけど。」

「お前人が味方になってやったのに!!!」

「いってえええ!!!!」


永倉先生が平助の背後から首を腕で締め上げる。バシバシと平助が先生の腕を叩いているがびくともしない。
ってか君達、またバレンタインの話か。
本当に好きだよね、そのネタ。


「うるせええええ!お前らここをどこだと思ってんだ!新八!お前も生徒相手に何してやがる!!!」

「職員室ですよ、土方先生。静かにしてください。」

「お前に言われたくねえ!総司!」


申し訳ないけど総司の言うとおりです。
一番うるさいよ、土方先生。


永倉先生が笑いながら平助を解放した。
すぐに平助が原田先生の方へ避難する。


「まあ、この時期は高校生だったら男女問わずそわそわしちまうんだろうなあ。」

「ええ。風紀委員としては気を引き締めるよう皆に伝えて行こうと思います。」


え、そういう切りかえしなの、一。
違うでしょ。
高校生らしくそわそわしようよ。


「相変わらずかったいよね、一君は。」


本当だよ。一だって毎年ものすごい数のチョコをみんなに渡されるのに…受け取るというよりは没収なんだけど。

「そもそもバレンタインにチョコを贈るという発想は日本のみだ。女子から貰えなくても別に何ということはない。」


ええ、その考えのせいであなたは先ほどバレンタインというそわそわするイベントを思いつかず鬼退治の節分を思い出してしまったわけですが。


「それは一君がチョコたくさん貰ってるから言えることだってー。貰えない奴からしたらバレンタインなんて都市伝説みたいなもんだよ?」

「平助、お前も毎年貰ってるだろうが。何を気にしてんだよ。」

「だってさ、左之さんとか貰う数の桁が違うじゃん!!一度は憧れるだろ!!」


確かに。
原田先生は毎年ものすごい数のチョコを貰ってる。土方先生も総司も一もすごいけどさ。

「もてる方法ねえ…。別にこれといって特別な事をしているつもりはねえけどな。」

「くっそ…なんで左之ばっかりもてるんだよー!!!」

「それは新八先生にないものを持ってるからでしょう??」

「たとえば!?」


いつの間にか原田先生を囲む会のようにみんなでぐるりと原田先生の周りに立ち、質問する形になっている。
と、いっても主に質問しているのは平助と永倉先生だけど。


「そうだな、やっぱり優しさは第一じゃねえか?女に優しく出来ねえ奴がもてるはずねえからな。」

「優しさ…。」


あ、平助が目つぶってる。
想像してるのかな。どうすればいいか。


「例えば何か手伝ってあげるとか?」

「勉強を教えるとかもいいのではないか?」

「やだな、一君。平助君にそれは無理。」


ひどいな、総司。
君もでしょ。

でもまあ優しい人っていうのは間違いないよね。
今時優しさなんて標準装備ってぐらい必要とされてるはずだもん。

「確かに困ってるのを助けてあげたら喜んでもらえるもんな!うん!俺、もっと人に優しくなれるように頑張る!!」

女の子にと言わず人に優しくなるという平助が本当に良い奴だと思うよ。
…良い奴すぎるともてなかったりすんだけどね。
総司みたいな奴にさらりと持っていかれちゃうんだけどね。


すると永倉先生が手を挙げて叫んだ。

「俺だって!女の子が重い物を持っていたらさっと持ってやるぞ!!俺の上腕二頭筋と上腕三頭筋はその為に存在するからな!!!」


びしっと腕を曲げてポーズをとる永倉先生。


「…新八先生がもてない理由が少しだけわかった気がします。」


あれ、すごい。
同じこと考えたよ、総司。今日は気が合うね。


「なんでだ!?」

「…ゴホン。他にはそうだな…やっぱり些細な変化に気付いてやることじゃねえか?」

頭を抱える永倉先生に苦笑いを浮かべながら原田先生が続けた。

「と、いいますと?」

「例えば髪型だな。女子は器用に結んだり編んだりするだろ。エクステつけたりカールしたり色々工夫してるからな。そういうところに気付いて褒めるのは大事だと思うぞ。」

おお、さすが原田先生。
確かに髪型頑張った時に褒めてもらえるのは嬉しい。

「あはは、平助君には無理だよね。全然気づいてないでしょ??あ、一君もその辺は鈍そうだよね。」

「そんなことはないが…別に言う必要もないだろう。」

「まあ一君はそれでも許されちゃうんだろうね。」

「うわー髪型とか苦手だよ。ばっさり切ってくれればわかるけどさ。」


まあ一や平助がそんな細かいこと気付いて褒めてくれるなんて想像もつかないけど。

するとすかさず永倉先生が手を挙げる。

「エクステとカールなら任せておけ!!レッグ・エクステンションとアーム・カールは毎日やってるからわかるぞ!!!」

「新八!!!とりあえずお前は一度筋肉を脳味噌から切り離せ!!!」


それまで黙ってパソコンで書類を作っていた土方先生がドンと机を叩いてツッコんだ。

先生…もう我慢できなかったんですね。
永倉先生の筋肉馬鹿ぶりに。

「それは無理ですよ、だって脳味噌まで筋肉でできてますから。」

「おい!総司!!」

「レッグ・エクステンションもアーム・カールも筋トレの一種だ。」


?マークが頭上にたくさん出ている平助に一が淡々と説明をした。
何で知ってるの、一。
いつも思うけど情報量半端ないな。

「ま…まあとにかく。もてる方法はよくわかんねえが…。バレンタインで何が大切かって数じゃなくて誰に貰えたかだろう?好きな奴に貰えなきゃ意味ねえからな。」


その通り。
大事なのは数じゃなくて気持ちだと思うし。

「それもそうだよなー。」

「貰うシチュエーションとかも重要だよね。平助君はどういうのがいいの?」

「俺!?俺は…。」

「誰もいない教室とか部室とか。校舎裏とか??ベタなとこ好きそうだよね。」

「ぐっ…そっそんなことねえし。」


図星か。平助。わかりやすすぎる。


「一君は?」

「俺?」


一もそういうベタなのが好きそうだけどね。
みんなの前とかじゃ受け取ってくれなそう。


(…誰もいないところがいいが、わざわざ相手に呼び出させるのも申し訳ない。)


あれ、一考え込んじゃったよ。
もしもーし。


(学校外というのも相手に面倒をかける。ではこちらから取りに行くべきなのか?)


「はーじーめーくーーーーーん。」


平助の大きな声にも全く反応がない。


(いや、こちらから貰いに行くなど…催促しているようではないか。こちらから行くなら理由を考えなければ…。)


「…斎藤はどうしたんだ?」

「あはは、気にしないでください。たまにあるんです。」


原田先生が心配そうに見ているのを総司が笑って答えた。


(よし、では俺が何かを作って渡す為に相手の所へ行くということにして…。)


俯いていた一が顔をあげた。
そして一言。


「俺はクッキーかチョコを作ろうと思う。」



「げほっ!何があった!?斎藤!!!」


また静かに仕事をしていた土方先生が叫んだ。
どうやら飲んでいたコーヒーが思わず気管に入ったらしい。
一の発言と土方先生の状況に総司が大笑いする。

「友チョコだの逆チョコだのが流行る時代だしな。お前らも逆チョコしてみたらどうだ?」


おお!逆チョコ!!
一が言ってたのはそういうこと??
…でも総司や一や平助が逆チョコなんてしたら騒ぐ女の子がものすごいいるし。
貰った女の子が無事で帰れるとも思えないからやめた方がいいと思う。

「逆チョコしようとは思わないけど友チョコはいいかもね。」

は?
なんか総司が意外なこと言ってるんですけど。

「友チョコって女の子たちがやってるやつだろ。男は普通やらなくね?」

「ああ。考えただけで寒気がするな。」

「でもさ、外国なんて男女問わずお世話になった人とか親しい人にプレゼントあげるっていうし。別にいいんじゃないの?何か美味しそうなの買ってきて交換しようよ。」

「うーん…まあ、最終的に食えるならいっか。」

「…わかった。」



ええ!?わかっちゃうの!?
そこ納得するの!?
三人で友チョコって…。


「わかったじゃねえ!そもそも菓子を学校に持ってくるな!没収だ!没収!!!」


土方先生の雷もなんのその。
総司はどこの店のお菓子がおいしいだのあそこの店はまずいだの情報を一に与え。
原田先生は永倉先生と平助にもてる方法とやらを説いていた。


永遠に続きそうな光景に私は静かにその場を去った。



数日後のバレンタイン当日。
そんな発言をしたことをすっかり忘れていた総司と平助は何も持ってきていなくて。
律儀に一がチョコを持ってきて二人に渡して三人で食べていた。
事情を知らない一部の女の子達の間で変な噂(え?三角関係?!)がたっていたけれど…。



ま、特に何も伝えないでおこう。
私ってばやっさしい♪











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