妄想男子7



「二月といえばさ、あのイベントだよね。」


そんな声が斜め後ろからして、ちらりと見ると総司がポッキーを食べながら一に話しかけていた。
本を読んでいた一は栞を挟んで閉じると後ろの席の総司の方へ体を向ける。
自分も会話に入りたかったのか、平助はわざわざ一の横まで移動していた。


「そうだな!もうそんな時期かあ。今年はどうなるかな…。」

「そうだな。」


ああ。
二月だもんね。
バレンタインのことか。
男子は大変だろうな。貰えなかったら悲しいもんね。やっぱり。

まあこの三人は貰えないってことはありえないけど、やっぱり気にはするのかな?



「一君は今年何個ほしい?」

「何個…?」


平助が一に聞きながら総司のポッキーを一つ奪った。
総司も特に気にしていないのかもう一本に手をつけている。


そうか、何個ほしい?なんて貰える前提の質問ね。
普通は一個でも貰えますようにって祈るもんね。もてる人達は違うわ。




「年の数だけで十分だ。」

「年の数!?多くね!?」



一さん!
まじっすか!年の数って…。
いや、確かに一なら貰えるだろうけどさ。
でもなかなかさらりと言えないよね。二桁いく数字はさ。


でも…なんで年の数なんて答え方したんだろう。


あれ?
もしかして…。

ちらりと総司を見るとどうやら私と同じことを考えたらしい。
ニヤっと一瞬だけ口角が上がっていたけれど一と平助は会話に夢中で気付いていなかった。


ああ。やっぱりそういうことか。


総司がイベントなんて言い方するから。
二月の行事を思い出したんだろうね。



一、多分勘違いしてるんだ。


バレンタインと節分を。


(毎年ちゃんと年の数だけ豆を食べているが…。小さい頃はそれ以上食べたいと強請ったものだな。)


(まじかよ、さすが一君。多いよな!!)


ってな感じのこと考えてるんだろうな。
二人ともどこかぬけてるから気付かないというか。


うんうん、これはとりあえず様子を見よう。
総司と一緒に。


「皆それぐらい食べるだろう?平助は特にそれ以上食べそうなものではないか。」

「いやいや、俺もさすがにそんなには。ってか普通二、三個もらえればいいんじゃねえの?場合によっちゃゼロだよ。でもまあ一君ならそれぐらいか。いつも食べきれるの?」

「??余ったら外にまけばいいだろう。」

「ええ!!捨てるの!?意味わかんねえって!ひどいよ、一君!」




ぶっ!!
思わずふきだしそうになる。
違うことなのに噛み合ってる!!!

あ、総司も苦しそう。
下を向いて震えてる。



「???平助はどうなのだ?」

「俺は去年はちゃんとしたやつは三つぐらいかな。適当なやつはたくさんもらったけどさ。」

「ちゃんとした…?適当??」

「ちゃんと包まれてるやつっていうの?いわゆる本命。適当って言うのはコンビニとかにある小さいやつだよ。」(チ○ル的な。)


ああ。これはさすがに気付くかな。
だって包まれてるとか、本命とか。
節分には関係ないキーワードだもん。


じっと一を見るとやっぱり何か考え込んでいて。
総司もさすがに気付いたかと一にバレンタインのことだよと教えそうな体勢になっていた…が。


(包まれている…。落花生か!地域によってはまくところがあると聞く。小さいやつはいわゆる大豆だろう。)

「平助はどちらがいいのだ?」

「え!?」

(どっち??本命と義理どっちがいいってこと?そんな馬鹿らしい質問、一君がするなんて…。)



あれ、話が進んでいるぞ。
総司も何か言いかけたのに思わず口を閉じていた。


「やっぱ本命がいいよな!嬉しいもん。」

「俺は小さい方が好きだが。」

(義理がいいってこと!?)



え。
一の頭の中は今どういう状況!?
本命の方がいいという平助の答えはごもっともだとして、一の小さい方が良いって何!?
総司もさすがによくわかんないらしく口を挟まずに傍観している。


「…子供の時は親が頑張ってくれたものだ。」(鬼の役は大変だったろう。)

「あー確かに。母さん頑張ってたな。」(手作りだったもんな。)



おいいい!
まだ会話続くの!?
どうなってるの!?ってか一は節分の話してるんだよね!?


ってことは親が頑張るのは…あ、鬼の役か。
平助の方はバレンタインだろうからお母さんが何か作ってくれたってとこ?



「平助の家は母親がするのか。うちは父親だ。」

「まじで!?一君の家変わってるよな。」

「うちは普通だと思うのだが。」



ああ。やっぱり。
勘違いのまま会話が進んでいく…。
これ止めないとずっと続くんじゃない?
そろそろ気付きなさいよ、一も平助も。


「でもたくさんもらえたら嬉しいよな。一度でいいから囲まれるとか体験してみたい!」


平助が楽しそうに手に取ったポッキーを指揮者のように振り回しながら言う。
ああ、男子は憧れるのね、そういうシチュエーション。


「囲まれる…?」(鬼の集団にか!?)

「そう!男子なら憧れるだろ!?」(女の子に囲まれるの。)

「…追い払うだけではないか。」

「ひっで!!!なんか今日一君おかしくねえ!?」

「っくくく!もう限界!!!ねえ、いつまで続けるつもり?その会話。」


あ。やっと総司が止めに入った。
ほんと永遠に続くかと思ったよ。助かった。


「いつまでって…そもそも総司が言ったんだろう??」

「その通りだ。」

「だってさ、二人ともかみあってないんだもん。平助君はバレンタインの話だし、一君は節分の話でしょ?」


「「は!?」」


平助と一がお互いの顔を見合わせる。
その瞬間二人ともずっとはまらなかったパズルのピースを見つけたようにお互いの会話のズレを理解したらしい。


「なんだよ一君、そういうこと!?」

「平助がおかしなことを言っていると思っていた。」

「いやいやいや!普通二月のイベントと言えばバレンタインだろー!!」

「いや、二月の行事と言えば節分だろう。日本人なら。」

「まあ、一君ならその発想かもね。」


ああ良かった。
やっと落ち着いた。
これで次の授業に集中できると思う。


その後、さっきの会話の答え合わせをしていた一が包まれている本命のものを落花生と思っていたことを聞いてこらえきれずにふきだしてしまうのでした。


ああ…不審者確定。


続きます→





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