妄想男子5



それは移動教室での出来事。
音楽の授業なんだけど、今日はDVDで音楽鑑賞だから実質みんな睡眠時間となっていた。


「うー疲れた。」


休み明けだというのに朝からぐったりしている斜め前の平助。
音楽の授業は絶対寝てると思ったのに疲れ過ぎて逆に眠れないのか机に突っ伏すように倒れ込んでいた。


「合宿だったからね。特に平助君は永倉先生や原田先生に遊ばれてたから。」

「わかってんなら助けろよなー。あの人達教師ってこと忘れて自分達も戦うからこっちはもたねえっての。」



あ。
剣道部は土日合宿だったのか。
そりゃ疲れるよね。


あれ?顧問は土方先生だけじゃなかった?
あーでも確か永倉先生も原田先生も剣道強いんだっけ。一緒に行ったのかな。


「まあでも一君は相変わらず真面目だよね。ほら、ちゃんと聞いてるよ。」

「まじかよ一君、体力あるよな。」



移動教室の時だけ、一は少し離れた席に座っている。
うん、今日も真面目に授業聞いてます。


「まあ一君には原田先生や永倉先生も頭あがらないところあるよね。」

「確かに。だってさー飯のときもあの人達俺の飯はとるくせに一君のは絶対とらないんだぜ?」

「そりゃそうでしょ。だって永倉先生一度だけ一君のおかずとろうとしたんだけど…。」




先生…。
生徒のおかずとるって…。


「よりにもよって一君の好物をとろうとしたもんだからさ。」

「うん。どうなったの?」



―回想―


「斎藤!そんなのんびり食ってたらなくなっちまうぞおー!!!」



――バシッ!


永倉の箸が的確にふっとばされる。



「…永倉先生。俺の好物を奪うことはたとえ先生といえども万死に値します。」

「…こ…怖えよ、斎藤。冗談だよ。」


―――――――――――――――――



「ってなかんじで。」

「怖い…一君怖い。」



何それ!
一そんなになっちゃうの!?
一をそんなにする好物って何?!


「でもさ、一君の好物って…。」

「豆腐。」




は?


豆腐!?




「豆腐が好きなんだよ。特に高野豆腐。」

「なんか…一君らしいね。」



豆腐…いや、私も大好きだけど。
なんか若々しくないね、一。


「一君って白いしさ、豆腐の国の王子様って感じだよね。」


ぶっ!!!
危ない危ない。
また噴き出すところだった。
怪しい人に認定される!


「ぶはっ!豆腐の国ってなんだよー総司。」

「だって王子様っぽくない?一君。」

「確かになぁ。」



ニヤニヤしながら平助は一の方を向いた。
当の本人は全く気付く様子もなく静かに前を向いてDVDを見ている。



「豆腐の国かぁ。一君が指示だしてせっせせっせと豆腐作ってそうだな。」

「そちらの者たちは木綿担当だ。そっちは絹ごし。各自気をぬくことなく、仕事につけ…みたいな??」

「やっやめ!想像したら腹いてえ!」



私もお腹痛い。
無言で笑うの苦しいんだから!!



てきぱきと指示をだして豆腐を作る王子姿の一が容易に想像できた。
できあがったときは国民みんなで湯豆腐パーティだね。



「国民の飲み物は豆乳がメインで。」

「にがりの風呂に入るだろー。」

「そもそも大豆からきちんと手作りだよね。」

「一君ならそこからきっちりやるよな!絶対!!」



なんかおいしそう。
一がつくるお豆腐。


「平助君は、ご飯の国の王子とかにしておく?」

「なんだよー俺米かよ!?」

「良く食べるじゃない。…小さいけど。」

「おい、なんか最後言っただろ。ぼそっとなんか言ったよな!?」



チビって言ってたよ〜平助。
でも確かに平助はご飯たくさん食べるイメージあるし。
ご飯のCMとか出られそうだよね。



「じゃあ、総司は〜。」



うーんと腕を組んで考え込む平助。
総司は何を言い出すのか楽しみなのかニコニコして待ってる。

総司はそうだなあ。
あまり食べ物のイメージないんだよね。
しいていえばネギが嫌いってぐらいで。



「総司は魔王でいいよな?」

「うん、ちょっと外へでて話し合おうか?平助君。」




平助の言葉に脱帽です。
なんで魔王でてきた!
今、魔王のDVD見てるから!?
王子じゃなくて王様でもなくて魔王って!
どんだけ邪悪!
どんだけ凶悪!


総司笑ってるし…。
でも目が笑ってないよ。
かたや平助はキラキラ笑顔だし。
本気…なんだね。


「君、僕にどんなイメージもってるの?」

「??どんなって…そのまま。」

「…。」


キラキラ純粋な笑顔に毒気をぬかれたのか、総司が頬杖ついてため息をはく。
良かった。
クラスメイトが一人消えることにならなくて良かった。



「あーでも総司が変なこと言うからさ!夢にでてきそうだぜ…豆腐の国の王子様。」

「今度マンガに描いてきてあげるよ。」

「やめろってー!一君のこと正面から見られなくなるから!」



確かにー!
だけど私には見せてくれ、総司!



「…先ほどから何を話している。」


「「!?」」




わわっ。
いつの間にか一が近くに来ていた。
クラス中どころか先生まで寝ちゃってるせいで一が移動していても誰も何も言わなかった。




「ぼそぼそと話している声で気が散る。ゆっくり音楽を聴くことができん。」

「あ、ごめんね。一君。」

「あはは。ごめんなー。」




確かにこそこそ話す声って意外と響くよね。



「豆腐の国の王子とはなんだ。」


「「!!!」」



聞こえてたー!!
意外と聞いてたんだね!一!


「そのようなマンガが存在するのか。」



あ、マンガって言葉だけ聞こえてたのか。
自分のこと言われてるって思ってないんだね。


「ま、まぁ。」

「ちょっとね。」

「…俺にもかしてくれ。」




そう呟いて一は席に戻っていった。
ってえぇ!?!?



「ちょっちょっと、総司!」

「うわあ面倒。」

「どうするんだよ!?」

「マンガなんて読まないくせに。どんだけ豆腐好きなの。」

「…俺、総司がマンガ描くの手伝うわ!」

「は!?僕が描くの!?」

「だって仕方ねえじゃん!俺美術3だし!」

「僕も3だから!」



私も3…ってどうでもいい。
確かに総司も平助も絵がうまいなんて印象がない。
むしろひどい落書きしか見たことない。



それから残りの音楽の時間。
二人は必死にストーリーを考えるのでありました。



…後で見せてもらおうっと。








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