妄想男子1
男子高校生って…くだらない妄想するらしい。
「一君何みてんの?」
古典の授業は自習だった。
斜め前の席に座る平助が後ろ、つまり私の左側に座っている一に声をかけた。
一に目をやると窓の外をぼーっと見ているみたい。珍しい、考え事かな?
しっかりしていて勉強もできる一が何を見ていたか少し気になって、会話をこっそり聞くことにした。
「何かあるの?」
平助が一の視線の先を追うがそこには特に変わったものはない。
少し小高い所にこの高校は立っているが見渡せるのは住宅街などの建物で目立つビルがあるわけでも海が見えるわけでもない。
「…忍者。」
「は?」
「忍者を走らせていた。」
「忍者!?」
平助、あなたのリアクションは大正解です。
私にも忍者と聞こえましたが。
ファイナルアンサー?
「屋根の上をかなりの速さで走り抜けていくのだ。時々敵が現れたり、罠がある。」
「なっ何言ってんの?どこに人がいるの?」
平助の言っていることは間違ってない。
思わず私も外を見たが屋根の上に人どころか罠も敵もいなかった。
「やだなー平助君。一君の妄想だよ。妄想。」
「妄想??」
いちいち平助が私の代わりに思いを伝えてくれる。ほんとグッジョブ。
ってかなんでそんなすんなり受け入れられるの総司は。
一の後ろからひょっこり会話に参加したのは総司だった。
「え?平助君はしたことないの?妄想。」
「いや、そりゃ…したことはあるけど。」
「屋根とかみてるとさ。僕の場合はヒゲのおじさんだけどね、赤い帽子とデニムのつなぎきてる。時々緑になるけど。亀とか蹴りながら走って行くの想像する。」
(それ、マ○オなんじゃ。ってか亀蹴るゲームじゃないぞ。)
「確かに…屋根の上とかゲーム画面みたいだもんな。良い具合にアンテナとかトラップになっててさ。一君の場合は忍者だったわけか。」
「どんな忍者なの?」
「黒装束で髪は短髪。目が鋭い感じの…。」
「山崎君みたいじゃん。」
ほんといちいち平助と考えがかぶる。
同じレベルなの?私たち。
古典の係の山崎君は土方先生から預かってきたであろう大量のプリントをさっき配っていた。今はもくもくとプリントをといている後姿しか見えない。
「あーでも山崎君は忍者になれそうだよね。上の指示を忠実に守って任務遂行しそう。土方先生の言うこときっちりきくし。」
「お前がきかなすぎるだけだ、総司。」
「だってうるさいんだもん♪」
「先生にむかってうるさいと…。」
「わかったわかった。でも一君、せっかく妄想するなら可愛いくの一とかにすればいいのにー。」
「なっ…。」
(総司もマリ○じゃなくてピー○姫にすればいいじゃん。)
とか思ったけど、レアな一の照れた顔が見れたからつっこまないことにする。
「そーだよ、一君!どうせ妄想するなら可愛い子のほうが楽しいじゃん!」
「色気たっぷりのね。」
「そうそう!」
「そっそのような!俺は敵の攻撃にも怯まず、罠をくぐりぬけていく工程が楽しいのであって色気など…。」
「そう?山崎君走らせるの妄想したって楽しくなくない?」
「たいしたミスもなく進んじゃいそうだよなー山崎君なら。」
「そもそも山崎君で妄想していたわけでは…。」
「お三人方。」
「「「!?!?」」」
いつの間にか山崎君がいた。
私も気がつかなかった。
山崎君本当に忍者なんじゃない!?
「自習中とはいえ、静かにプリントといてくれないか?」
「あ、うん。」
「ご、ごめんな?」
「すまない。」
3人も相当驚いたのか、すぐに謝った。
ってかいつからいたんだろ。
「それで…俺で妄想ってなんですか?」
(((きかれてるー!!!)))
や…山崎君、怖い。
いや、そりゃ自分で何か想像されてたら不快だよね。しかも男子だし。
「な ん で す か?」
「あ、いやその…。な!一君!」
「平助!俺に話をふるのか?!」
「そもそも一君の妄想でしょ。」
「俺の想像だが、山崎君だったわけじゃ…。妄想と言うな!」
「…土方先生に報告しておきます。3人とも、あとでこってりしぼられてきてください。」
氷のような眼差しと一言を落とし山崎君はスタスタと席に戻って行った。
「ちょっとー!完全に巻き込まれたー!」
「ほんとだよ。一君ももっとうまく言いわけしてよね。」
「俺のせいなのか!?」
3人が小声で騒ぎだす。
あんたら小声のつもりだろうけどすごい響いてるからね。
男子ってほんとくだらない妄想するのね。
今回の一番の被害者は一より何より山崎君なんじゃないかと思ったのは私だけみたいね。
終
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