一樹会長の彼女である苗字名前先輩はよく生徒会室に来ては夜久さんや翼君に抱き付いたりキスしたり好き放題して一樹会長に怒られてふらりと去って行く。しかし今日はそんな苗字先輩と珍しく生徒会室に二人きり。まぁ一樹会長に勝手に帰るなと強く念を押されていたので帰るに帰れないだけなのでしょうけど。夜久さんも翼君も今日は来ていないので苗字先輩が構う相手がおらず先程からずっと一樹会長の椅子に座り頬杖をついて外を眺めている。苗字先輩は黙っていれば綺麗な人だ。夕方の傾いた太陽の光に照らされてキラキラと輝く白に近い金髪。折れるんじゃないかと思う細い腕。少し垂れた目は長いまつげに縁取られている。更に右目の下の泣き黒子が苗字先輩を大人っぽく見せている気がする。

「何見てるの?」

急に話掛けられはっと我に返ると苗字先輩が僕を見て意地悪そうに笑っている。

「いえ、見ていません。」

意味のない嘘だと自分でも分かっている。



「ねぇなんとか君。紅茶淹れてよ。」

一度切れた会話を苗字先輩がまた紡ぐ。頬杖を止めた苗字先輩が一樹会長の机の上に置かれたままの一樹会長専用マグカップを覗きながらそう言った。



苗字先輩は僕のことを名前で呼ばない。夜久さんも翼君も名前で呼ぶのに僕のことはいつも"副会長君"や"なんとか君"と呼ぶ。

「毎回毎回なんとか君って呼ぶのわざとですよね?」

仕方なく起き上がりながらため息交じりそう言えば苗字先輩はくすりと笑った。それはきっと肯定だ。

「僕の名前覚えてますよね?」

「ふふっ。もちろんだよ。青空颯斗君。」

初めて苗字先輩の口から紡がれた己の名前に違和感を覚える。

「でも呼んであげない。」

至極楽しそうに微笑む彼女はいつの間にか僕のすぐ側に居た。そして僕のネクタイを力一杯引っ張って僕の耳に自分の口を近付けた。

「だって、君、私の大切な一樹に隠し事してるでしょ?」


息が止まるかと思った。それはきっとネクタイが引っ張られて喉が圧迫されたせいだ。絶対に。









詰まる呼吸


会長の彼女と僕の話


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