目の前に置かれたクッキーの山から星の形の茶色いクッキーを取って口に入れる。歯を立てると程よい抵抗の後にさくりと音を立てて砕けた。
もう一つもう一つと手を伸ばしていたらブラックコーヒーで満たされたマグカップがやってきた。

「おいしいよ、さすが錫也。」

「良かった。全部食べてもいいからな。」

向かいの席に腰を下ろした錫也は私服のせいかちょっと大人っぽい。

「私にも出来るかな?」

ブラックコーヒーを口に含みシロップを舐める。苦味と香ばしさがあっという間に人工的な甘さに呑まれた。

「名前先輩は器用だから出来るよ。」

レシピ教えましょうか?と言いながらチラシの裏で作ったメモ帳とボールペンを取り出す錫也を眺めながら私はひたすらクッキーを砕く。
しばらく黙ってボールペンを走らせた錫也はビリビリとメモ帳を破り私に渡してくれた。

「おぉ!あひがほお」

「ものを食べながら喋るのは止めなさい。」

お母さんに怒られたので仕方なくクッキーをコーヒーで流してもう一度"ありがとう"と伝えると錫也は優しい笑顔でいえいえと撫でてくれる。
千切られたメモに視線を移すと理系の男の子にしては綺麗な文字でレシピが書かれている。だいたい予想通りの材料が並ぶ中、私は最後に書かれた材料を読み返す。

「愛情って…」

呟きながら錫也を見ると錫也は嬉しそうに笑い私と錫也の間にあるクッキーを摘んだ。


「このクッキー、名前先輩への愛情を入れたから美味しく出来たんだぞ。」


平気な顔してこんな甘い台詞を吐く彼は台詞に負けないくらい甘い笑顔で私を見つめている。













砂糖菓子のような人


優しい後輩と私の話


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