電話が切れて我が家のインターフォンが鳴るまでの時間は、予想よりすこし早かった。
「あら、誰かしら?」
お母さんが来客の合図を聞いて首をかしげながらよいしょと声に出して立ち上がる。
「私が出るよ。」
「そう?」
彼氏が出来たことは報告していないのでなるべく自然にお母さんを止め、玄関に向かった。
本当に錫也先輩来てくれたのかな。てか、私、大丈夫かな?変じゃないかな?私は玄関の鏡で一応自分を確認してから玄関を開けた。
「椿!」
「錫也先輩…」
その先には予想通り錫也先輩が居て嬉しすぎて不覚にも泣きそうだ。
「会いたかった。」
私の両手を握り優しく微笑む錫也先輩はやっぱりかっこよくてこんな人が自分の彼氏だなんて信じられない。
「会いたいだなんてわがまま言っちゃってごめんなさい。」
そう言ったら錫也先輩の顔がいきなり近付いてきた。驚いて目をつむるとこつんとおでこに感触。うっすら目を開けるとすぐそこに目をつむった錫也先輩。つまりおでことおでこがくっちいた状態で…ってああああああああ!!ち、ちち近、近いいいいい!しかも
「謝らなくていいよ。むしろもっとお前のわがままが聞きたい。」
とか言っちゃっててて!
心臓がもたないいいい!!
「椿、照れてる。本当に可愛いな。」
ふいに離れたおでこに寂しくなる暇もなく錫也先輩は甘い言葉を囁くもんだから私が恥かしい。
「す、錫也せ」
「こーら、いつまで先輩って呼ぶんだ?俺はお前の彼氏だぞ?」
「じゃあ…錫也さ…」
うっかり錫也先輩にきゅんきゅんモードになってた私は忘れていた。ここはうちの玄関だ。そしてこの時間帯はお父さんの帰宅時間。すごくいい笑顔の錫也先輩の肩越しに見えた顔に私はとてつもなく焦った。
「ん?椿?」
「錫也さん、ちょっと手、離しましょう。」
「え?どうして?」
「す、錫也さんの後ろに、その、お父さんが、いましてですね。お帰りなさいお父さん。」
錫也先輩の手から私を剥ぐように引っ張り私の肩を抱くお父さんの笑顔が怖い。
「ただいま僕の可愛い椿。そしてこちらは誰かな?」
なんてベタな状況!
20110417
事件は玄関で発生
[ 5/20 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]